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晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニングと気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「八月の六日間」

 鎌倉の書店「たらば書房」が発行する「たらば通信」で紹介された本を手に取ってみた。北村薫「八月の六日間」。直木賞作家であり、何かと目にする名前でもあるが、向き合うのは初めてだ。雑誌の副編集長である女性(のちに編集長)が日々の煩わしさから回避するように山に登る話だ。その都度本を何冊か持っていくので、個人的には「本>山」の興味で読んだ。自分も、通勤や外出時に多めに本を持ち歩くタイプである。

 

八月の六日間 (角川文庫)

八月の六日間 (角川文庫)

 

 「九月の五日間」「二月の三日間」「十月の五日間」「五月の三日間」そしてタイトルの「八月の六日間」といわば連作短編のような仕組み。学生時代の想い出や男性との交際などが共通して描かれている。作者は男性だが、女性視線の著作がいくつかあるようで、結構スムーズに読ませる。というか、ミステリーもののセリフ回しに近いような気もする。文章がこなれているというのが、第一印象だ。

 「九月の五日間」は北アルプスの燕岳~槍ヶ岳上高地のコース。本は、戸板康二「あの人この人 昭和人物誌」などが言及されている。単に山のエッセー集と書いてあるが、加藤文太郎「(新編)単独行」を読んでいるのかも。新田次郎孤高の人」のモデルだそうだ。

 

新編 単独行 (ヤマケイ文庫)

新編 単独行 (ヤマケイ文庫)

 

 「二月の三日間」は五色沼裏磐梯。ここは昔、似たようなコースを歩いた記憶があるが、さすがに冬場に行ったことはない。持っていった本は、内田百閒の本と「向田邦子 映画の手帖」。編集者だけに(?)持っていく本が渋い。1ページも読めなかったそうだが、「本は精神安定剤」という言葉に納得する。

 「十月の五日間」では上高地から常念岳、そして燕岳。ここでは、南方熊楠「十二支考」の下巻、川端康成「掌の小説」、吉田健一「私の食物誌」。二年ほど前か、新潟で「汽車旅の酒」や海外旅行で(なぜか)「金沢」を読んだ記憶があり、旅に吉田健一というは納得。

私の食物誌 (中公文庫)

私の食物誌 (中公文庫)

 

  「五月の三日間」はいわゆる八つ岳に。麦草峠~青苔荘~渋の湯のコース。書物は西村美佐子「風の風船」とヴァージニア・ウルフ「オーランドー」。

 表題作「八月の六日間」は折立~高天原温泉~双六岳から穂高を目指す。本は、中島敦「南洋通信」。「九月~」でも「山月記」に触れていた。中島敦といえば、橫浜元町の汐汲坂に碑があった。ちくま文庫で全集3巻があるが、腰を落ち着けてあらためて読んでみたい作家である。

 アマゾンのレビューを見るとこの本について、「初心者は真似しないように」と軽装備や認識に注意を喚起する文がアップされている。確かに山となると、一筋縄ではいかない。単行本にも書いてあるかどうかはわからないが、文庫本の末尾には注意書きが書かれている。

 「作品中に描かれている…必要な道具類」は「あくまで主人公の場合」であり、「登山初心者・未経験者」は「気軽な気持ちで登に行くことがないよう」に注意している。レビュー類を見て、付け加えたかどうかはわからないが、ごもっともである。