晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男」

 「オシムの言葉」やJリーグ関連でも秀逸な著作がある木村元彦(ゆきひこ)氏の「徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男」を読んだ。今西が育成したサッカー人脈は、森保一高木琢也などがクラブの監督、もしくはフロントなどとして、Jリーグを支えている。サッカーを離れても「今西門下」を名乗る元選手たちも多いことだろう。選手人生にとどまらずその後を見据えた育成で、それぞれの人生観に影響を与えた結果である。「人の育成に長けた将」として、本では「育将」という言葉を当てている。

 そして、この今西和男の人生に焦点を当てながらも、FC岐阜の社長解任となった経緯を地道に拾い上げて、Jリーグの人事介入を露呈させた調査報道の一面もある。木村氏に助手やデータマンがいるかどうかはさだかではないが、丁寧な取材と調査がなされている。木村氏は過去にも、「社長・溝畑宏の天国と地獄」や、我那覇和樹(当時川崎フロンターレ)のドーピング冤罪の経緯を書いた「争うは本意ならねど」とJリーグをテーマにしながら、人間模様や組織の不条理などを書いてきた(特に後者は、必読書と言えるかも)。

徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男

徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男

 

  広島出身の今西氏は4歳の時に被爆し、左腕や左足にケロイドが残る。高校2年でサッカーを始めて、東京教育大、東洋工業(その後、マツダ)と進む。引退後、会社ではマンモス寮の寮長を務めるなど指導力・育成力、そして人間力を発揮していく。経験を買われて、サッカー部に戻り、のちの日本代表監督であるハンス・オフトの招聘やいまでは指導者になっている選手などを獲得していく。

 有名選手とのエピソードはたくさんあるが(この手の本としては登場人物が多い)、学生時代からスター選手だった風間八宏氏の話や昇格請負人といわれる小林伸二・現清水エスパルス監督との話が出色だ。久保竜彦選手や、高木琢也・現V・ファーレン長崎監督のように個人的にまだ記憶に新しい人物のエピソードも、彼らの現役当時に抱いていた印象を裏付けするような記述も少なくない。特に高木監督の場合は、橫浜FCの監督に就任してJ1に昇格したときに、意外に(指導者として)しっかりしていたという印象があったのが、この本を読んで合点がいった気がしている。

 木村氏の本の特徴であるが、サッカーが好きな人もそうでない人も、高いレベルで興味を維持しながら読めるようになっている。それは、彼の作品も今西氏と同じように、「人に訴えている」からだろう。