晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「語学で身を立てる」

 ひょんなことから猪浦道夫という存在を知った。とある英語学習のセミナーがあり、猪浦氏とは無関係だったが、主催側が猪浦氏の著作も出版していて、それらがセミナー講師の著作とともに並んでいたのだ。「英語冠詞大講座」という本で、冠詞だけで350ページの本を書ける人がいるのかと感嘆した(実は演習問題にたくさんページを割いていた)。aか、theか、それとも冠詞が入らないのかは、文章によっては相当迷うところであるので、それはそれで良い本じゃないかと思う。ちなみに出版社は、DHC。化粧品の印象が強いが、そもそもは「(D)大学(H)翻訳(C)センター」は略であり、英語絡みの出版物は良書が少なくない。社としても、社のスタートとなった語学出版には思い入れがあるらしく、出版物には会長か社長かの決済が必要との話がある。

語学で身を立てる (集英社新書)

語学で身を立てる (集英社新書)

 

 脱線したが、それで集英社から新書で出版された「語学で身を立てる」を購入した。2003年の刊行で、日韓W杯の翌年かと思うと随分と昔の本だが、いまだに手に取る人が多いようだ。タイトルそのまま、語学で身を立てるための方向性や学習法、心構えなどが書かれている。各国語のニーズなどは、アップデートが必要かもしれないが、内容はまだまだ通じるところがあると見た。

 猪浦氏はポリグロット外国語研究所の代表。いわば語学教師だが、12カ国語の翻訳に携わるというマルチリンガリスト。英語を語るにしても、英語から外れた場所(他の外国語のあり方)から「攻めて」くるのが新鮮だった。少なくとも英語以外の欧州言語は遠い昔にドイツ語をかじったというか、唇に触れた程度なので、できないと言ってしまっていい。英語を多少使っていると、日本語と比べて「厳密」だという印象は薄れてきて、結構「あいまい」な言語だなという気にさせられるので、氏の主張も理解はできる。

 激しく同意しながらも現状がついていかないと思われるのが、英語学習における「ネイティブ信仰」。日英両方に通じた人に習うのが一番かとは思うが、日本語に通じた英語話者というのはなかなかいない。英語教師歴が長くなってくると、日本人が間違える癖がわかってくる英語ネイティブの先生がいるが、たぶん望めるのはここまでではないか。

 仕事に英語が関わる部分があるので、自分の職場にもネイティブの外国人がいるが、一人に言葉の問題を任せるのがどうも不安で(自分も外国人に日本語を聞かれるとそうだと思う)、ついついセカンドオピニオンを聞きたくなってしまう。だが、複数置くのは(職場の財政的にも)あきらかに無理だし、二人いても仕事が割り振るほどない。時折自信なさげに応じられると、こちらも不安になるのだ。だいたい日本で暮らすために(場合によっては配偶者が日本人で定住することになり)英語の仕事をしているだけであって、そもそも言語の専門家じゃないからなおさらである。

 「語学で身を立てる」をバイブルとまで書くのは大げさだと思うが、指針とするには悪くないと思う。英語すらろくにできない人間にとっては、これだけ語学ができる人ってどういう人なの、と逆に頭の中を覗いてみたい気がする。語学学校の代表として、定点観測できる立場なので、定期的にアップデート版を出して欲しいと思うし、それだけのニーズがあるのではないだろうか。