懐事情で読むのは文庫か新書がメインになって、やや寂しいと思うのが装丁のインパクトが薄れること。店頭の主役がLPレコードからCDが変わった時にもそのような気持ちになった人が多いだろう。どうしてもジャケットのインパクトが弱くなる。ストリーミングならなおさら。本だってキンドル読みをすると、装丁やカバーは意識外の存在になる。
晶文社が元気だったころ(最近、復活の兆しあり)、平野甲賀さんのあの書体と装丁が好きでついつい鶴見俊輔さんの本などを狙って買っていたが、「装丁物語」を書いた和田誠さんは気が付いたらいつの間にか持っていたという感じ。遠藤周作さんの著作を読んで、和田さんの装丁だと気づいたのが最初ではないか。和田さんを意識したのはたぶん村上春樹さんの本あたりだろう。
カート・ヴォネガット、丸谷才一、井上ひさしなどと和田さんを意識しないで買った本は多い。シンプルで、余計な線がない感じ。親しみやすいけど、どこか洗練されたタッチが好きだった。主張もあるが、本の内容を邪魔しないしっかりしたバイプレーヤーという印象。
この本は、いわば自伝風でもあり、本へのオマージュでもあり、デザイン論でもある。紙の種類とか、ペンの種類とか、門外漢の自分にはわからない部分もあるが、はっきりわかるのは、本への思いと和田さんなりの美意識。バーコードには相当の抵抗があったのは理解できる。
いままで自分が読んだ本の装丁やデザインの話もいくつかあって、ちょっとした裏話を聞いた気になった。今回は中公文庫で刊行だけど、単行本の後は、白水社のUブックス(新書版)ででていたらしい。和田さんは早川書房のたくさんしていたようだ。たしかにロアルド・ダールは和田さんの仕事だった。もっと長生きしていろいろな作品を見せてほしかった。
東日本大震災から今日で9年。いろいろと考えさせられる。