晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「辞書になった男 ケンボー先生と山田先生」(上)

 先月の話だが、書店に並んだ文春文庫の新刊を眺めていると、佐々木健一「辞書になった男 ケンボー先生と山田先生」が目に入った。単行本で購入した本が、積読の間に文庫化された。少なからずあることだが、結構ショックは大きい。もともと文庫で読むようにしているのだが、「舟を編む」の本屋大賞受賞、映画化の流れでできたと思われる「辞書」「日本語」関連の書籍が多数出ていたころに買った本。文藝春秋から出ているので十分文庫化も予想できたはずだが…。衝動的に購入し、積読。悪い癖だ。

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 文春文庫や講談社文庫、新潮文庫などは毎月多くの文庫が刊行される。数合わせもあるだろうが、いくつかは意図的なものである。例えば今月文庫化された、矢野大輔「通訳日記 ザックジャパン1397日の記録」は、ロシアW杯最終予選に合わせているし、小説が映画化される場合などには、文庫化が急がれることもある。10月に公開される「永い言い訳」は、昨年に単行本が出て、すでに文庫化されている。映画の公開に少し先んじての文庫化は、映画監督である本人の意向で、映画のパブリシティを兼ねているのかもしれない。そうかなあという想像に過ぎないが。

 で、この「辞書になった男」の文庫化。単行本が出てからは2年は長くも短くもないという印象だが、出版社側はやはり「日本語」「語彙」などをテーマにした本が引き続き出ているので、その流れが絶えないうちに文庫で売ってしまおうと思ったのかもしれない。ただ、文庫化に急かされて読んでみると、もしかして、これは現在放映中のNHKテレビ小説「とと姉ちゃん」に合わせたのではないかという気がしてきた。

 この「とと姉ちゃん」。いまさら説明の必要もないだろうが、雑誌「暮しの手帖」の大橋鎮子がモデルで、この「暮しの手帖」編集部は特集記事として「商品テスト」を行っていた。そして1971年2月号では「国語の辞書をテストする」として、国語辞典が対象となった。当時の各社の主要国語辞書を比較・検証し、ほんの一、二字を入れ替えた語釈が多いことが明らかにしたのだ。間違いがあった場合、その間違いがそのまま「伝播」されてしまう。

 その〝親亀〟といわれたのが、サブタイトルのケンボー先生(見坊豪紀)と山田先生(山田忠雄)が辞書作りをしていた三省堂が出す「明解国語辞典」だった。その後、山田が編纂した「新明解国語辞典」の初版には、「おやがめ【親亀】(*亀は旧字)」という項目が立てられ、「国語辞書の安易な編集ぶりを痛烈に批判した某誌の記事から、他社の辞書生産の際、そのまま採られる先行辞書にもたとえられる。ただし、某誌の批評がことごとく当たってるかはどうかは別問題」(単行本177ページ)と書かれているという。長くなったので、続く。