晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニングと気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「セールスマン」

 2017年の米アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、昨年のカンヌでも脚本賞と男優賞を取っていた、イラン映画「セールスマン」を見た。監督はアスガー・ファルハディ。トランプ政権の入国制限令に抗議して、監督と主演女優のタラネ・アリドゥスティがアカデミー賞の授賞式のボイコットを表明したことでも有名になった作品が、このたび日本でも公開される運びとなった。まだ上映館はル・シネマや新宿シネマカリテくらいだが、今後、徐々に広がっていくようだ。

 アーサー・ミラー原作の舞台「セールスマンの死」に出演している夫婦、エマッドとラナ。二人は舞台のみで食べている「専業俳優」ではなく、エマッドは国語の高校教師だ。セットを見ると小洒落ているが、客席の数などを見ると小劇場と思われる。メークなどはそれらしくしてもらっているので、大学時代にでも舞台経験があり、職業にはできなかったものの、夢捨てきれず続けているのかもしれない。

 そんな夫婦が、強引な隣の工事によって引っ越しを余儀なくされる。彼らは劇団仲間の紹介であるアパートに移り住む。劇が初日を迎えた夜、シャワーを浴びていたラナは何者かに襲われる。犯人を捕まえたいエマッドと、事件を表沙汰にしたくないラナとの間に亀裂が生じていく――。

 パンフレットの監督インタビューによると、「セールスマンの死」と「セールスマン」というこの映画の関わりは、「時代に適応できない人々」という事らしい。アーサー・ミラーの戯曲では大戦終結後に都市部が開発され、変容する社会に対応できない部分、この映画では、冒頭に出てくる開発計画によって、居場所を失う住人が描かれている。もう一点は、ネタバレにつながりそうなので、この時点では伏せておく方がいい。

 この前見た「人生タクシー」と比べると、かなり洗練された作品のように思える。「人生タクシー」は与えられた制限を120%以上生かして作られた名作だと思っているが、「セールスマン」はイラン映画の表バージョンでは水準の高い作品だと思われる。でもファルハディー監督の「別離」(これもアカデミー賞外国語作品賞受賞)の方がいいという友人もいて、こちらも是非見たいと思っている。