晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニングと気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー」

 「鳥」「スパルタカス」「ベン・ハー」「十戒」「ウエスト・サイド物語」「卒業」「ローズマリーの赤ちゃん」「ロッキー」「エクソシスト」「カッコーの巣の上で」……。この作品群に関わっている夫婦は? ついでにもうちょっと作品名をあげていこう。「レインマン」「スタートレック」「戦争のはらわた」「ブレードランナー」「コットンクラブ」。これらは、絵コンテ作家のハロルド・マイケルソンと、リサーチャーのリリアンが担当した作品だ。必ずしも、二人同時に絡んだ作品ではないが、相当な数である。ほぼ名作と言われている作品を網羅していると言っていい。個人的に思い入れのある「レイジング・ブル」「イージー・ライダー」も含まれるとは思わなかった。これまで彼らの存在をまったく知らなかった。それもそのはず、二人の名前がクレジットされることはほぼなかった。

 第2次世界大戦の時も上官に芸術の道へ進むことを薦められたハロルド。映画の絵コンテ作家(storyboard artistというらしい)の道へ進む。脚本をカメラ目線でとらえて描き出し、いわゆる映画の設計図を作る仕事である。セリフや尺も含む。一方、リリアンが担当した映画リサーチャーは、時代考証を含め、映画作りの情報調査をする仕事である。映画にリアリティを与える仕事と言っていい。ハロルドは初めて担当した「十戒」で名を上げ、夫婦としてはヒッチコック「鳥」で「共演」を果たす。二人が関わった作品数は100を超えるという。

 「鳥」や「卒業」の有名シーンがハロルドの手によるものだという事実に驚かされた。たぶん、このほかにも印象的なシーンが彼によって下書きされているのだろう。「スタートレック」でプロダクション・デザイナーとしてオスカーにノミネート。「愛と追憶の日々」では美術監督としてノミネートされている。

 リリアンは、ボランティアとして仕事をはじめ、自分の名義のリサーチ図書館を作るまでになる。その幅の広いリサーチ力や人脈で、多くの作品を下支えしてきた。その人脈は「スカ―フェイス」では麻薬王にまでつながったという(夫の反対で取材には至らなかった?)。CIAの事務所の風景など一般人が知り得ない情報まで入手したと言うから驚きだ。

 映画というものがたくさんの人の手によって作られるのは承知しているが、こんな仕事があるのだなということを思い知らされた。どちらも映画を作る上で大事な仕事であろう。これでいくらもらえるのだろうという下世話な興味ももたげてきたが、映画会社を移りながらも、リスペクトされる存在に至ったのは救われる気がする。ドリームワークスの「シュレック2」で二人の名を冠した人物が登場する。

 この映画のもう一つの柱は、二人の愛の深さだろうか。ほぼ10歳したのリリアンと、やや強引に結婚したハロルドだが、二人は支え合って生きていく。長男が自閉症と診断され、仕事にも制限が生じた部分もあるだろうが、失業や移籍を繰り返しながら、力強く生きていった。

 映画を通じて、この二人の存在を教えてくれた、ダニー・デヴィートとダニエル・レイム監督に感謝。惜しむらくは、ハロルドが存命中に映画が企画され、ハロルドとリリアンがともに人生を振り返ってくれたら、より良かった。それでもハロルドの映像は結構残っている。映画業界ならではだろうか。場所によっては、これから公開される劇場もある。自分もちょっと前に知ったばかりでおこがましいが、映画好きにはぜひ知っておいていただきたい二人である。