晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニングと気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「誘拐」

 本田靖春を知ったのは、その昔に「ヤングジャンプ」の「栄光なき天才たち」(画・森田信吾)で「不当逮捕」という漫画を読んだときだ。というか、その時には漫画の原作となったノンフィクションの書き手の存在には気づかず、後日、活字で読んでみようと思ったときに、元読売新聞記者の存在を知った。

 その後、「警察(サツ)回り」「疵」など作品を読んだ。「誘拐」もその一つだが、ふと思い立って再読した。現在、ちくま文庫で出ている「誘拐」だが、持っているのは文春文庫版。かなり焼けているので、この本をもう一度読んで手放そうと思ったためだ。

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誘拐 (ちくま文庫)

誘拐 (ちくま文庫)

 

  文春版の表紙には、誘拐犯人が「落ちる」部分が書かれていて、活字が力があった頃の装丁だなと思った。久しぶりに読んだせいか、初めて読んだような気持ちで読めた。相当面白い。

 「誘拐」は1963年に発生した「吉展ちゃん事件」をテーマにしたノンフィクション。犯人(逮捕後、死刑執行)の遺族側の取材は断られたようだが、誘拐された側や警察サイドの取材は徹底的に成されていて、それこそ食い入るように読んでしまった。

 今から考えるとこんな事件が長期化するわけはないのだが、発生当時は電話の逆探知ができず、警察の初動もずさんすぎた。今時、口裏合わせでアリバイが成立するとは思えない。何よりも警察のミスから、脚に障害を持っていた犯人の単独犯行という線を捨てきれずにいたというのが響いた。犯人は誘拐直後に早々に吉展ちゃんを殺していた。社会的影響や、口裏合わせなどで計画性を問われ、死刑判決。犯人はその後、短歌の世界に入り、刑の執行を待つことになる。

 ざっといえば誘拐発生から逮捕まで、そして犯人のその後という話なのだが、人間模様がつぶさに描かれていて、相当の緊迫感で読まされた。

 今ほど、個人情報だ、プライバシーだのと問われない、そんなに遠慮がいらない時代のノンフィクション。情報の積み上げ方や書き込み方も、今とは手法が違う(たぶん)。今の観点からだと自重すべき点があるかもしれないが、その分生々しくて、読み物としての魅力は増している。

 この本は手放すことになるが、幸い電子書籍として彼の作品がたくさん残されている。また彼の作品に浸りたい。