晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「ジャーナリズムの現場から」

 新聞記者が気になるフリーランスや現役の新聞記者、TV出身などの10人のジャーナリストに会って、取材方法やスタンスについて聞いた「ジャーナリズムの現場から」。ジャーナリズムというよりは、ノンフィクションのブックガイドとして読んだ。先日読んだ、本田靖春「誘拐」をまだ引っ張っている感じだ。

 筆者は、朝日新聞大鹿靖明氏。知人によると、組織の中では浮いているようだが、敏腕といってもいい記者と聞いている。東日本大震災発生後の記者会見で、報道機関に属する記者たちが質問もろくにせずひたすらPCのキーボードを打ち込んでいる姿に違和感を覚え、組織ジャーナリズムのアンチテーゼとなるような見本を示したかったそうだ。筆者本人もたぶん「アンチ」の類いなのだろう。

  さて、彼のお眼鏡にかなったのは、角幡唯介、高橋篤史、長谷川幸洋安田浩一、大治朋子、坂上遼(小俣一平)、杉山春、栗原俊雄、大塚将司、堀川恵子の10人。半数は読んだ事があり、半数は知らない。

 角幡氏の本は積読状態だが、沢木耕太郎氏との対談を読んだ事がある。エンタメノンフの高野秀行氏の早大探検部の後輩であり、朝日新聞でも5年ほど働いていた。いざ本社勤めというタイミングで社を辞め、作家・探検家の道を歩んだ。「おすすめノンフィクション」では、本多勝一の本をあげていて意外に思った。いまから30年前に朝日を受ける人には、名前を出してはいけないといわれた存在だったからだ。他に、沢木耕太郎氏や辺見庸氏の著作など。王道といえば王道でもある。

 高橋篤史氏は知らなかった。経済をフィールドにしていたそうだ。個人的にはあまり読まない分野だ。彼が薦めているのは、やはり本多勝一と、福田ますみ「でっちあげ」と佐藤章「ドキュメント金融破綻」。

 長谷川氏は「ニュース女子」問題で知った。この件はともかくとして、東京新聞社内で異色の存在。本書のインタビューによると、経営陣に好かれているそうだ。社内に敵は多そうだが、現実主義が売りなので、勤務先とはそりが合わなそうである。

 安田浩一氏は著作を読んだことがあるし、注目している。ヘイトスピーチ関連でポッと出てきた印象があったが、地力のある人との印象を持った。大治朋子氏と栗原俊雄氏は毎日新聞の記者。大治氏の本は新書で読んだことがあり、栗原氏のは、タイトルだけは知っていたが(タイトル自体がシンプルで、知っていたと錯覚しがち)、存在は知らなかった。ある程度の立場になっているので、それなりに時間を使った取材ができそうである。時間があるからといって、必ずできる仕事ではないが。栗原氏は、沢木氏、後藤正治氏の著作をあげている。読んだ本だとちょっと安心。

 NHKにいた坂上遼氏の本も読んだことがない。が、面白い人だと感じた。組織を利用し、かつ、突き放した目でNHKという組織を見ていて、サラリーマンとしてはなかなか注目すべき人間ではないか。どこかで著作に巡りあえるだろう。

 杉山春氏の本は、この本で知って、さっそく「ネグレクト」を読んでいる。人の親として一読しておくべきと思った。日経記者として社長と差し違えた大塚将司氏も会社員として学ぶべきところがありそう。新聞社なんて、きれい事を主張している割には自分の会社では、経営と報道は別だといっていてタチが悪いと思っているが(そのくせ法的に突っ込まれないように完璧に対処している)、大塚氏には勇ましさを感じる。

 最後に堀川氏。残念ながら、岩波あたりで本を出されているので、図書館にいかないと著作に巡りあえそうにない。ちなみにテレビ界の出身だそうだ。(追記:講談社文庫で彼女の著作が読めます。失礼しました)

 読んでみて思ったのは、筆者も含め、早稲田出身の人間が多いこと。なにか、カラーというのがあるのかなと不思議に思った。