晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「王とサーカス」「真実の10メートル手前」

 書店で気になる存在だった米澤穂信。何か一つ読んでみようと思っていたが、ミステリーの賞で3冠を達成した「王とサーカス」が文庫化されたのを機に購入した。正直、ここまで夢中に読まされるとは思わなかった。残り250ページくらいはほぼ一気読み。近年、ここまで集中して本を読んだ記憶はない。集中力を引き出された気がした。こちらは長編だったが、続いて読んだ「真実の10メートル手前」は短編6編収録。発表はこちらが先だ。解説によると、作中の時系列的には短編1作が「王とサーカス」の前で、この長編を挟んで、残り5作となるそうだ。そこはあまり気にせず読める。ともにフリーランス記者太刀洗万智が主人公だ。

王とサーカス (創元推理文庫)

王とサーカス (創元推理文庫)

 

  「王とサーカス」は新聞社を辞めてフリーランスとなった太刀洗万智が、総合ニュース誌「月刊深層」の依頼で、ネパールに取材で訪れるところから始まる。宿泊先は「トーキョーロッジ」。この時点での目的は観光ものの記事を書くことだった。

 しかし、王宮で国王殺害事件が発生。王族数人が皇太子に殺され、その皇太子は自殺を図ったという。現地にいる太刀洗は取材を事件に切り替えて、わずかなツテを頼って軍人との接触に成功する。しかし、次にその相手を見たときには死体となっていた。体に刻まれた傷文字とともに――。

 最初の方は、太刀洗のキャラクターをつかめずにいたが、徐々にその取材スタイルを含めて把握できるようになった。主人公のキャラをつかむにはむしろ「真実の10メートル手前」から読んだ方がいいだろう。「王とサーカス」は太刀洗の目線で語られるが、「真実」の方は作品によって、相手目線で語られている短編があり、当然、太刀洗に対する描写も含まれていて、わかりやすい。なかなか鋭い記者だ。そうじゃなきゃ、主人公は務まらない。ともに一種のジャーナリズム論にもなっていて、太刀洗の取材姿勢は個人的にはちょっと堅苦しいが、それもいいだろう。

 「真実」を読んでみると、米澤氏の持ち味は短編の方ではないかという気になってくる。状況設定が独特で、いい意味での違和感が頭に引っ掛かり、作品に引き込まれていく。短編「正義漢」はどこに連れて行かれるんだという気持ちにさせられて、ストンと落ちて気持ち良かった。 現在「満願」を読書中。これまた、仕事や睡眠に悪影響を与えそうで怖い。