晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニング(最近ちょっと無理している)と気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「罪の声」

 いわゆる「グリコ・森永事件」が起こった頃は20代前半だった。当時はテレビも持たず(持てず)、新聞と雑誌が情報源だった。グリコの社長が誘拐され、青酸入りの菓子が店頭に並べられ、関西弁の脅迫文が企業やマスコミに届く――。警察を手玉に取るような犯罪がいつまで続くのか、世直しを気取っているのか、犯人の本当の目的は何なのか、などと、当時の警察の不祥事などの要素と絡めて、かなり高い関心を持っていた。

罪の声 (講談社文庫)

罪の声 (講談社文庫)

 

  さて、塩田武士「罪の声」。単行本刊行時から、文庫化を待っていた作品だ。被害を受けた会社名こそ、「ギンガ」「萬堂」などで「ギン萬事件」とされているが、「グリコ・森永事件」がベースにあるのは言うまでもない。フィクションとはいえ、15年の構想をもとに書かれているだけに、塩田氏が書く筋には説得力を感じる。というか、話があまり面白くて引きずり込まれた感がある。グリコ・森永事件に対しては、関西出身だけに、こちらに住むものとはまた違った記憶があるのだろう。地域柄、青酸入り菓子にはより恐怖感を覚えたはずである。

 話は二方向から進む。まずは、家にあった脅迫用テープの声が自分の子どもの時の声だと知る曽根。自分の親が事件に関係しているのではと調べ始める。そして、文化部の新聞記者で未解決事件の特集を任された阿久津。阿久津は、神戸新聞で文化部だった塩田氏を思わせる。ちなみに来年公開となる映画では、前者を星野源、後者を小栗旬が演じるとのこと。

 TVや小説に出てくる新聞記者は遊軍という設定のなのか、かなり自由に動けるが、友人によると、実際の現場ではそうはいかないそうである。内勤やルーティンがあり、動ける日には制限が生じる。塩田氏もそのへんの事情は当然知っていて、最初は文化部の仕事の合間にこの未解決事件を報じるための応援部隊の仕事をする。英語ができるというだけで、英国へ。しかし、空振り。経理にも嫌味を言われる。これは本人の体験なのか。ネタをとれるに従い、取材の自由度が増していくようにとれた(周りが許すのだろう)。

 どこまで書いていいのか、迷ってしまうが、犯人グループに途中で仲間割れがあったという仮説は、かなり面白い。実際のところは、すべてが闇の中だが、文庫版で500ページを超える作品を一気に読ませる著者の力量も素晴らしい。デビュー当時、心に引っかからないレトリックがいくつかあったが、今回はスキがないなという感想を持った。彼の作品をこれまで3作読んでいるが、ダントツに引き込まれた。もちろん、こちら側に、あの事件に対する高い関心があるのも事実だけど。当面、これが塩田氏の代表作と言えるはず。