晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「父のこと」

 吉田茂という首相がいた。「という」などとは失礼な気もするが、いかんせん時代は令和。多少の説明は必要とするかもしれない。1946年に総理大臣になり、54年まで5次にわたって内閣を組織している。麻生太郎副総理兼財務相は孫にあたる。ワンマンと称され、答弁で「バカヤロー」とか言ったり、健康法を聞かれ「人を食っております」と答えたりとなかなかキャラが立った政治家だった。自分が生まれた時には隠居していたが、まだ影響力はあったと思う。

 吉田茂には、作家であり、イヴリン・ウォーなどの翻訳で知られる息子・健一がいる。小説は「金沢」「酒宴」しか読んだことはないが、食や酒に関するエッセイは結構読んでいるつもりである。好きな作家と言っていい。2年ほど前に、父について書いた文をまとめた本が刊行された。会社周辺の書店で買うことが多いので、帰りの電車内で購入した本を読み始めることが多いのだが、たぶん当時は面白くなかったのだろう。読まないまま放っておいてしまった。そんな本をつい先ほど見つけて読みだしたら、妙に面白い。それほど嗜好が変わったとは思わないが、プラスに感じられるのなら「アリ」である。

父のこと (中公文庫)

父のこと (中公文庫)

 

  冒頭は「父の読書」という題のエッセイ。息子・健一が父の趣味として認めるべきは、P・G・ウォードハウスの読者ということだと書いている。いまでは「ウッドハウス」の名前の方が通りがいいだろう。「シーヴズ」シリーズの作者である。5月から上皇后陛下となった美智子様もご愛蔵というのが売りになった作品だ。吉田茂は、ユーモアがないところに思想がないという主張があったとのこと。外交官出身だけに読書の幅は広かったようだ。他に、大佛次郎や落語のファンでもあった。

 トランプ米大統領が来日したタイミングだったが、この吉田茂も当時は、破天荒なタイプのリーダーと思われていたかもしれない。戦時中には投獄されているが(不起訴)、逆にGHQの信を得ることになったそうだ。指揮権発動、造船疑獄など、エピソードも枚挙にいとまがない。SNSがある時代の政治家だったら面白かったかもしれない。

 息子との対談である「大磯清談」がこの本のハイライトか。日本人論、反米、ジャーナリズム、外交など様々なテーマについて話し合っている。なかなか含蓄がある話が多い。令和の最初の月に、昭和に引きずり込まれた感覚である。