晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「地図のない場所で眠りたい」

 早稲田大学探検部出身の作家二人による対談集。一人は「謎の独立国家ソマリランド」など、秘境に行ったり怪獣を探しに行ったりと、行動そのものがネタになる高野秀行。もう一人は、「極夜行」で一段と有名になっている探検家・角幡唯介。10歳違い(高野が1966年生、角幡が76年生)の二人が、探検や大学生活、作家論、作品論などを語り合っている。休刊になってしまった講談社「IN★POCKET」に載っていてもおかしくないような感じ。

  一読して思ったのは、早稲田の在野精神と言ってしまうとステレオタイプすぎるが、二人ともメインストリームを嫌うタイプということ。周りの早大卒(中退も割といる)の連中と共通するところが多い。二人とも、サラリーマンになって背広着て、そのまま定年退職という人生は嫌だったらしい。高野氏はライターに、角幡氏は就職する気はなかったが、当時付き合っていた女性が新聞社に入ったのに疎外感が生じて、新聞社に入ってしまったらしい。ある程度、探検家としてやっていける目途がついたのか、地方をいくつか回って退職。

 初めて知ったのが、探検部出身のライターが多いということ。京都大の本田勝一は有名どころとはいえ、早大なら直木賞作家の船戸与一と西木正明、慶応なら星野道夫、法政は高山文彦、明治は吉田敏浩、一橋の関野吉晴、同志社長倉洋海などと、現在書いているものから想像がつく人もいるが、なかなかの面々だ。行動したことを書かないことには伝わらないからか。

 高野氏はライターで食っていこうと思っているものの、自分くらいの文章家はいくらでもいると思い、行動と文章を合わせてやっていこうと思ったという。うん、そのままだな。なんかブレがなくてむしろすごい。兼業主夫だという。妻が10年くらい専業主婦をやってきたので、そのあと交代。対談の時点で3年目。40歳くらいまで年収が200万円を超えたことがほとんどなかったという。今は結構忙しいだろうに。集英社から文庫になっている作品も相当あるし…。対談では著作があまり増刷されないと書いてあるが、この本を読んで買ってしまった「アヘン王国潜入記」は9刷である。増刷されないのは単行本の話かもしれないけど。

 この本はちょっとした探検ブックガイドにもなっている。紹介されている本は、デイヴィッド・クラン「ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え」、高井研「微生物ハンター、深海を行く」、ジョン・ガイガー「奇跡の生還へ導く人 極限状況の『サードマン現象』」、ショーン・エリス、ペニー・ジューノ「狼の群れと暮らした男」、ダニエル・L・エヴェレット「ピダハン」。

サードマン: 奇跡の生還へ導く人 (新潮文庫)

サードマン: 奇跡の生還へ導く人 (新潮文庫)

 
狼の群れと暮らした男

狼の群れと暮らした男

 

  なるほどなと思ったのは、高野氏が説明口調になると面白くなくなるということ。妙に俯瞰して説明しようとすると逆に本質が見えなくなってくるらしい。そして見えにくいところが、ポイントだったりするという。ノンフィクションはテーマに読者がつくけど、小説は作家に読者がつく。だから、小説を書けと高野氏は船戸氏に言われたそうだが、ノンフィクションながら読者は、明らかにテーマではなく高野氏についている。だから、高野氏の場合は小説家になっても変わらないとのこと。角幡氏の探検記も読んでみないとね。いくつか買ってはあるのだけど。でも次はやっぱり、高野氏の「アヘン王国潜入記」かな。