晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニング(最近ちょっと無理している)と気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「ミゲル・ストリート」

 近親者の葬儀があり、2時間ばかり電車に揺られることになったので、何か一冊持っていこうということで、V・S・ナイポール「ミゲル・ストリート」を手に取った。漠然と小説が読みたいと思っていた。乗り換えもあるし、区切りがつきやすいのがいいだろうと、17の話の連作短編を選んだ。ナイポールは、トリニダード・トバゴの作家(トリニダード島の方)。2001年にノーベル文学賞を受賞している。

ミゲル・ストリート (岩波文庫)

ミゲル・ストリート (岩波文庫)

 

  首都ポート・オブ・スペインにあるミゲル・ストリートに住む人々をコミカルに描いている。大工、詩人、ナイポール本人を思わせる「僕」などと様々な人が登場。アホな人や風変わりなおっさんが出てきて、ちょっと落語を思わせる。第2次世界大戦中から戦争終結あたりまでの同国の雰囲気が感じ取れる。

 ところどころにカリプソが挿入されている(詩だけど)。実は、勝手に癒し系の音楽と思い込んでいたが、歌詞はかなり政治的だったり扇動的だったりと過激だ。宗主国が変わっていったことも関係するのかもしれない。カリプソは、アフリカ系の奴隷が音楽でコミュニケーションをとっていたのが始まりだという。スティール・パンがやさしく響く、力が抜けてなんとなく幸せにさせるような音楽というのは間違っていたわけだ。今度、歌詞のメッセージなどを吟味しながら聴いてみたい。

 この「ミゲル・ストリート」はナイポールの実質的なデビュー作。書き上げたものの、「神秘的な指圧師」という作品で先に世に出ることになったらしい。訳者の一人である小沢自然氏の解説によると、ナイポールは世界的な評価を高める一方で、いわゆる第三世界の「未熟さ」を訴えて批判も浴びているという。機会があれば、そのような本も読んでみたいが、いずれにせよ文庫化されないことには手に取る気にはなれない。ナイポールは2018年に亡くなっている。

 恥ずかしながら、インド風の名前と英語で書いているので、勝手ながらイギリス在住のインド系作家だと思っていた。英国留学後に住み着いているので、間違いではないものの、カリブ海の作家だったとは。これを読んでから、なんかカリプソが気になってしょうがない。本物が知りたいって感じである。