晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニング(最近ちょっと無理している)と気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「横浜1963」

 1964年に開催された東京五輪前年の横浜を舞台にしたミステリーが、2020年東京五輪パラリンピックを翌年に控えた今年に文庫化された。今月だったか先月だったか、同じ出版社の文藝春秋から蜂須賀敬明「横浜大戦争」が文庫化されている。家には柞刈湯葉横浜駅SF」も積読状態。そろそろ横浜ものを読もうと思っていたが、現住所に近いところが舞台である、伊東潤「横浜1963」を選択した。こちらの方がとっつきやすそうだ。帰宅時に桜木町のBook Expressで購入。

横浜1963 (文春文庫)

横浜1963 (文春文庫)

 

  横浜港で女性が殺された。犯人が米兵の可能性があると見た神奈川県警は、外事課のソニー沢田に捜査を担当させる。ソニーが日本籍ながら、見かけがアングロサクソンで英語が堪能だからだ。日本人の母はいわゆる「らしゃめん」(外国人相手の遊女、現地妻)だった。

 そもそも手が出せない上に、圧力もかかったようだ。ソニーの捜査は難航する。米軍の協力をあおぐことになった。その協力者となるのが日系3世のSP(Shore Patrol)のショーン坂口だ。こちらは米国籍を持つ移民の子で、血筋的には日本だ。ここらの設定は対照的である。二人は出自について苦しみながらも、事件に向き合っていく。

 謎解き的な要素もあるが、やはり当時の横浜の雰囲気というのがこの本の魅力ではないか。ここ数カ月は銭湯を念頭に走って、中区はもちろん、磯子区、西区、南区と徐々に詳しくなってきているので、周辺の地名には詳しくなっている。知っている地名が出てくると(大体知っているが)少しうれしい。

 小港はもはや団地のイメージしかないが、当時はPX(post exchange)で物品が売っていたらしい。1963年は自分が生まれる前だし、横浜に住んで40年になりつつあるとはいえ、様相はかなり違っていたのだろう。横浜に移ってきた当時は、新山下の三丁目に金網に囲まれた旧米軍住宅地が残っていて、本牧にも、VFWやイタリアンガーデン、ディスコのLINDYもあった(しかし、そこに行くカネがなかった)。いまや根岸の住宅でさえ、抜け殻のような状態である。自分の中でも、根岸といえば牛タンの店のパーセンテージが高くなってきている。根岸森林公園を単に「森林公園」と呼んでしまうからだが。

 ソニー沢田が育った場所が森林公園近くの「相沢」というところだが、現在はないと思われる。これは当時がそのような地名だったのか、簑沢をそこだけフィクションにしたのか。著者の伊東氏も、横浜に生まれ、いまだに住んでいるという。そもそも時代小説を書いていたらしいが、この作品が初めてのミステリーとのこと。たぶんノリノリで書いたのではないだろうか。こちらもそんな気持ちで読ませてもらったが、横浜に興味がない人がそんな気持ちで読めるかどうかはちょっと疑問である。