デトロイト。主要産業は自動車で「自動車の街」と言われていた米国中西部の都市だ。数年前に、アフリカ系アメリカン人の暴動を描いた「デトロイト」という映画を見た。白人警官が高圧的というかほぼ脅迫ともいえる尋問をするシーンが頭に焼き付いて、後味が悪い映画だった(とはいえ、映画自体は評価している)。尋問された一人には、この都市を本拠にするザ・ドラマティックスというボーカルグループのシンガーもいて、その本人はいなかったもののその日本公演を見ているので、なんとなくデトロイトという土地は気になるのだ。
で、本題。原田マハ「デトロイト美術館の奇跡」。それ相応に薄い文庫ではあるが、著者が人気の原田マハさんなのでそれなりに売れる見込みもあるのだろう。いまどき500円(税抜き)しない本は珍しいのでついつい買ってしまった。
デトロイトが財政的に非常に厳しい状態に陥り、その美術館の所蔵品を売却が検討されていたという事実を元に、著者が小説化した本。逆に短さが効果を出しているのかもしれないが、ほっこりさせられる。読後感がスキッとして気持ちいい。
最初に出てくるのは、アフリカ系アメリカンの老夫婦。病気の妻が夫にお願いしたのが、一緒にこの美術館を訪ねることだった。その後、財政破綻でその美術館自体の存続が危うくなる――。
タイトルからも想像できるし、デトロイト美術館が存続しているのは事実なので、それはそれでよしとしても、「なるほど、そう来たか」と思わせてくれる話だった。巻末に俳優の鈴木京香と著者の対談あり。