晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「哲学の先生と人生の話をしよう」

 仕事中に、朝日新聞デジタルで人生相談を読んでしまうことがある。朝日新聞がいいというよりは相談を受ける側の面子が好きだ。「悩みのるつぼ」というコーナーで紙面ではどこに載っているわからないのだが、上野千鶴子美輪明宏姜尚中、清田隆之の各氏が、中には重いテーマの相談が多いにもかかわらず、豊かな人生経験と知見をもとにして(清田氏はお若いが)名回答で返す。それなりの説得力を感じる。

 だからというわけではないが、國分功一郎「哲学の先生と人生の話をしよう」を読んだ。國分功一郎氏の著作を読む前に、この本で慣らしておこうと思ったのだ。哲学の本は読むと消耗するが、相談に答えるのなら、少なくとも口語調だし読みやすいだろうと。

哲学の先生と人生の話をしよう (朝日文庫)

哲学の先生と人生の話をしよう (朝日文庫)

 

  そもそもメールマガジンで受け付けた相談をまとめたもの。それだけに相談する側も若い。20代、30代がメインだ。実情はそれぞれ違うのだろうが、なんとなく相談の幅が狭いような気がした。恋愛、親子関係、人間関係、中にはマスターベーションがやめられないといった、昔の「明星」か「平凡」に載っていた相談事もあった。この手は、なんか懐かしくなる。

 肝心の國分氏の回答だが、相談の文章の読み解きが深い。回答の肝は、哲学書を参考図書(時に別ジャンル)として答えているところか。彼氏のねずみ講的な仕事(ネットワークビジネスっていうんですか?)を応援できないという女性には、アリス・ミラー「魂の殺人」、知人が高校中退して美容師になると言っているという相談には、自身の「暇と退屈の倫理学」などをもとに回答している。

魂の殺人 新装版

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暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)

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  ただ、文面での相談の難しさも感じた。相談を受ける側は文章で判断するしかない。しかし、相談する側がきっちりとその材料を与えられるケースというのはそんなにないのではないか。同じ言葉の反復や、文章の構成、意図しているのかどうかはわからないが、状況説明の漏れなどで判断される。中には、國分氏に「隠している」と突っ込まれるケースもあった。もしかしたら、気持ちが焦って前のめりな文章で相談してしまったかもしれないではないか。

 現在、テレワークでチャットらしきもので同僚とやりとりしているが、話の流れに乗っていないと理解できない言葉も多い(自分も含めて)。そして、ズレたやりとりの修復しがたいというか、モニターに残った字面が妙に痛々しいのだ。チャットなんてしっかり書き込むものではないと理解しているが、それでも文章で伝える力が弱い人というのは如実に現れるものだ。話し言葉ではさほど感じないのに…。自省を込めて、書き言葉って怖いなあと感じた次第である。