晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「空港にて」

 村上龍さんの小説を読んだ。たぶん「半島を出よ」以来。というか、他に書籍で読んだ記憶がない。いまさら「ダブル村上」のもう一方と比べるような真似はしたくないが、あちらさんのは、長編は身構えてしまって手が伸びないが、短編やエッセイなどはよく読んでいる。龍1に対して、春樹10くらいの割合だろうか。龍さんをカルピスの原液として、春樹さんを水とすると、かなり薄いカルピスが出来てしまう。メーカーの推奨は原液1:水4程度らしいが。

 逆にテレビで見かける頻度となると、龍20:春樹1くらいか。春樹さんの場合、何かの賞を受賞したとか、その際に講演をしたとかのニュースで接することが多いのに対して、龍さんは、ちょうど帰宅したタイミングでやっている「カンブリア宮殿」で見ることが多くて、缶ビールを飲みながら番組を見ることが多い。勝手ながら、龍さんには社会性や時事性を強く感じる。春樹作品に社会性が欠けているわけじゃないと思うが、どこか寓話的なオブラートに包まれていて、その部分には直接触れない感じがする。龍さんには、もっとダイレクトさがある。

空港にて (文春文庫)

空港にて (文春文庫)

  • 作者:村上 龍
  • 発売日: 2005/05/10
  • メディア: 文庫
 

  短編8篇を収録。幻冬舎が編集する留学情報誌「wish」向けに書かれた3篇、「コンビニにて」「居酒屋にて」「公園にて」が冒頭から続く。留学情報誌からの依頼だけに、海外に目を向けるような話にしたという。残りは「オール讀物」に向けたものが主となるが、そのコンセプトを踏襲したとみられる。

 やはり表題作の「空港にて」が出色だと思う。文庫化は2005年で、その帯に著者自身が最高の短編小説と書いていている。離婚して、子供を抱えながら風俗で働いて生計を立てている女性が、新たな希望を手にするという話。「コンビニにて」に登場するサイトウさんと、「空港にて」のサイトウさんは同一人物なのか。職業も年齢も違う気はするが、その後日談というとらえ方もできなくはない。

 個人的には、タブロイド紙を読んでいる気になった作品もあったが、トータルでは結構楽しめた。