晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「遙拝隊長・本日休診」

 ふと読みたくなった井伏鱒二。最近は、河合祥一郎さんやら福岡伸一さんも「ドリトル先生」の新しい翻訳を出しているので、井伏訳は淘汰されていくのかもなあ。なんかほんわかした雰囲気の中話が進むけど、よくよく考えてみると結構シリアスなテーマだったりするのが、井伏さんだったりする。この本もそんな感じだ。

遙拝隊長・本日休診(新潮文庫)

遙拝隊長・本日休診(新潮文庫)

 

  「遙拝隊長」は復員してもいまだに戦争中だと信じている元中尉の話。まだ「軍人」なのである。母親がたばこを買ってくると、それが恩賜のたばこと思い、感極まりながら東に向かって遙拝の礼をする。道を歩くと、突如「歩調をとれえ」と号令をかける。周りも発作と見て、取り合わない。もしくは「中尉殿」と持ち上げながら適当にやり過ごす。

 どこかユーモラスでまるで落語のように事は進むが、彼がなぜこのような状態になったかを突き詰めていくと、やはり笑えないのである。

 一緒に収録されているのは、「本日休診」の札を出すと患者が訪れるという病院というか医者の話。第1回読売文学賞受賞。映画になっているし、ドラマ化も数回。「黒い雨」みたいにハードな奴もあるが、井伏作品は「珍品堂主人」「駅前旅館」が映画化されているし、機会があれば見てみたいものだ。昔の作品なので、今の感覚からすると女性の描き方に問題はなきにしもあらずだが、そこを突っ込んでも始まらないだろう。

 考えさせられることはあるのだが、ユーモラスなタッチの井伏文学にすこしばかり救われた。テレワークで仕事と私生活の区切りが難しくなり、生真面目なせいか(笑)、どうも私生活に侵食しがちなのだ。リモート化で会社からも全体的に時間外が増えていると指摘もされている。従業員の健康を気遣っているようで、多いぞと牽制しているようだ。ちょっと息が詰まっているので、今度は「集金旅行」か「駅前旅館」を読んで現実逃避をしてみようと思っている。