晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニング(最近ちょっと無理している)と気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「キップをなくして」

 「池澤夏樹さんって、こんな小説も書くのだな」というのが、読んでいて思った印象だ。手に取ったものは夏休みのキャンペーン中なのかどうかは知らないが、カバーの上にカバーをかけたもの。Amazon商品紹介で出てくる書影は、こちらの方が池澤作品のイメージに近いもので、書店で購入したものは切符の絵が描かれた、池澤らしくないカバーだ。

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こちらが現在のカバー
キップをなくして (角川文庫)

キップをなくして (角川文庫)

  • 作者:池澤 夏樹
  • 発売日: 2009/06/24
  • メディア: 文庫
 

  なんか小中学生の夏休みの課題図書にしてもいいような本。ウィキペディアを見ると、池澤作品に映画化された作品はないようだが、この「キップをなくして」はスタジオジブリでアニメーション作品になってもおかしくない。

 まだ、交通系ICカードはなく、切符に鋏が入っていた時代。イタル少年は、銀座の切手店に行くために恵比寿駅から電車に乗った。いよいよ有楽町。いざ改札を通ろうとすると切符がない。困ったイタルに声を掛けた子どもが、彼を東京駅に連れていく。なんと東京駅には、山手線で切符をなくした子が集まる場所があったのだ——。

 彼らは家には戻れず、日中は「駅の子」として、電車通学の子どもを守るのが仕事となる。子どもが危険にさらされそうな時には、なんと時間を止めることができるのだ。駅構内の食堂で食事をして、時には、遠出して各地の駅弁を食べる。駅の外に出られるのは終電と始発の間だ。

 年上の子が下の子の世話をしたり、勉強を見たり。そこに子どもだけのちょっとしたコミュニティーがある。駅員やキオスクなどで駅で働く人たちは彼らの存在を知っていて、温かく見守る。

 切符をなくして集まった「駅の子」の中に一人、事故で死んだ子がいる。一番幼いミンちゃんだ。「駅の子」は電車通学の子どもたちがいなくなる夏休みになると家に帰ることができるが、ミンちゃんは帰る場所がない。彼女が行くべき場所はたぶん天国なのだが、まだその決断ができない。

 生と死の問題を扱っているが、小学校高学年あたりなら、十分に理解できるのではないか。冒頭でも触れたが、池澤作品の幅を感じた。隠れた名作かも。