晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「本の中の世界」

 コロナ禍の「おかげ」って言葉は使いたくないが、在宅勤務で全般的に本に接する時間が増えたようだ。ついでに腰の故障で、走る時間も減った。2年間以上続けてきた月100キロ走は8月で途絶え、9月はリハビリで週1だけ無理のない距離を走っている(もともと無理はしないが)。当然、時間もできた。後押ししたと言えば、スターバックスやブックカフェが近所とは言えないが、電車に乗って割とすぐの場所にできたことか。初めてではないが、スタバに行くのは恥ずかしかった。しかし名前が長いものを頼まなければ、なんとかなるもので、少し慣れてきた。でも、やっぱり高いなあ。ゆっくりさせてもらっているけど。

 さて、湯川秀樹「本の中の世界」を読んだ。日本人として初めてノーベル賞を受賞した人だ。たぶん、子どもの頃に初めて「博士」とセットにして覚えた人物である。その後は、「お茶の水博士」などと架空の人物も入り混じることとなるが。その湯川さんの、読書遍歴を公開のしたのがこの本である。たぶん、ほんの少しだと思われる。

本の中の世界 (岩波新書)

本の中の世界 (岩波新書)

  • 作者:湯川 秀樹
  • 発売日: 1963/07/01
  • メディア: 新書
 

  一読して思ったのは、単純に、この時代の人は古典に接しているのだなあということ。近松浄瑠璃とか狂言をしっかり読んでるんだな。そのような時代だと言えば、そうなのだろうが。中国ものもそう。「荘子」「墨子」「唐詩選」など。森鴎外舞姫」や上田敏海潮音」に、ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟」、バートランド・ラッセルに、永井荷風「あめりか物語」。目新しいものはないが、その分、ズシっとくるような選択。

 「図書」に寄稿した分では新書にするには足らないので、「短い自叙伝」を収録している。原子爆弾の登場について、「私のような専門のものにとっては、他の人たち以上に深刻なショックでした。(中略)科学者として、また人間としての反省へと形を変えてまいりました」

 湯川さんはそもそも自分の学問の専念したいタイプで、あまり海外に引っ張り出されたくはなかったそうだ。国際会議などで、自分の考えがわかってもらえそうでなかったという。そもそも通じないと思いながら、ノーベル賞を取ってしまったせいか、担ぎ出されるのは自分となると、辛い部分も多かったのではないか。

 読みながら感じるのは、科学の知識を下支えしている教養の広さなのだが、それ以上に湯川さんの生真面目さが伝わってくる一冊だった。こういう風に生きたいものだなと思った時にはすでに遅し、か。地味ながら刺激的な本だった。