初の柚月裕子体験である。中公文庫で上巻700円、下巻680円(いずれも税別)とは結構強気な値段設定と見た。この「盤上の向日葵」がそれだけ売れると踏んでいるという事かと思う。すでに評価の高い作家だけど、これまでは縁がなく、柚木麻子さんと混同している時期もあった。将棋がテーマとあっては買わないわけにはいかぬ。下巻はほぼ一気読み。家の者に機嫌が悪いと思われるほど没頭して読ませてもらった。
埼玉県の山中で白骨死体がみつかった。一緒に埋められていたのは、名匠による将棋の駒。将棋の駒は、字が盛り上がっているのが手がかかり高級品とされている。大宮北署の叩き上げの刑事・石破と、かつて奨励会に属していた佐野が捜査に抜擢され、コンビを組むことになる。
白骨死体の身元が分かるまでには時間がかかる。二人は、将棋の駒を手掛かりに捜査を始める。幸いと言うべきか、初代菊水月作の駒を持っている者は限られる。しかしながら、美術品のようにマニアの間で売買が繰り返されて、行方を追うのは難しい。
冒頭、二人が向かった先は、将棋のタイトル戦。羽生善治さんを思わせるタイトルホルダー壬生と、ベンチャーの社長から奨励会を経ずにプロ棋士になった上条の対局が行われている。話はそこから過去にさかのぼり、駒の行方を追う二人と、上条の生い立ちが描かれる。
藤井聡太さんの活躍で注目度が一段を高くなった将棋界。人気作家が将棋をテーマにした作品を書くというのだから、単行本も相当評価が高かったと思われる。2018年の本屋大賞2位というのはなかなかの成績だし、読んでみてうなづける。著者は、飯島栄治七段から協力を得たという。こなれた将棋用語がまた嬉しい。
死体が誰なのか終盤までわからない。著者もこなれたもので、読み手に絞らせないように書いているようだ。そして、数百万の値がつく将棋の駒はなぜ死体とともにあったのか。人物の描き方、プロットなどが、巧み。人気作家であることに納得させられた。