小説は一度も読んだことがないのに、エッセイだけに手が伸びる。購入しているだからいいだろうとは思いつつ、角田光代さんにはちょっと申し訳ない気がしている。映画化されているのはそれとなく内容がわかっているのでなかなか手が出ない。それでいて、どんなものを書くか気になるのだ。で、手っ取り早いのがエッセイというわけだ。幸い角田さんは食、音楽、本(これは当たり前か)について詳しいし、こちらも興味があるところ。ボクシングもかよ、と思って購入したのがこの本だ。
失恋がきっかけでボクシングジムに通い始めた角田さん。2001年から輪島功一さんが会長を務めるジムでボクシングを始めた。心も強くしたいと思ったとのこと。そこから練習生の試合を見に行くことになったそうだ。そういえばボクシングって、たぶん生で見たことないな。なぜか前日?の計量に居合わせたときがあったが。別件で保健所みたいなところに行った時だと思ったけど。記憶があいまいだが。
齧ってる程度のレベルでもプレーしているスポーツにはがぜん興味が湧くもの。それほどのファンでもないといいつつ、村田諒太選手の試合を見にマカオまで飛んで行っちゃうあたりは、さすが売れっ子の小説家という感じがする。
そして、試合を重ねるにつれて目で慣れていき、ボクシングをより分かってきているのを感じる。描写がこなれてくるというか、心の動きまでもとらえているように見える。角田さん自身、以下のように書いている。
ボクシングの試合を見るようになってから、心と体の密接具合にひそかに驚いていた。ほんの少しの心の動き、迷いや躊躇が、そのままストレートに体にあらわれる。どんなに体を鍛えても、ほんの一瞬心が違う方向を向けば、体もそっちにいってしまう。 そのことのシンプルさと残酷さに驚き、なんておそろしいんだろうとも思った。
ほぼストイック一色というイメージだったボクシングに、人間味を感じさせてもらった。ボクシングとノンフィクションって相性がいいと思っていたが、さらにその気持ちが強まった。