「IN★POCKET」の文庫翻訳ミステリーにつられた形で、ボストン・テラン「その犬の歩むところ」を読んだ。特に愛犬家というわけではなく、興味として広がったのはボストン・テランという作家そのものに対して。
年齢、性別不明の覆面作家。訳者あとがきによると、著者に対して「彼」という代名詞があてられているそうだが、訳者の田口俊樹氏は、60歳代の女性と推測しているそうだ。訳すにあたって、問い合わせをしているそうなので、まんざら「あてずっぽう」と言うほどでもないかもしれない。はっきりしているのは、米国生まれのイタリア系ということ。
冒頭から引き込まれた。アマゾンのレビューを読むと、賛否が分かれるところのようだが、ややしつこい描写の書き込みが、個人的には「賛」の方に。はじめて、この作家の作品を読んで、「神は銃弾」「音もなく少女は」はもっと出来がいいのだろうと勝手に想像を膨らませたところがある。もはや入手が難しい本もあるようだが、手に入るこの二作は早めに読んでおきたい。
さて、この「その犬の歩むところ」だが、原題は「Giv: The Story of a Dog and America」とあるように、ギヴという犬を話の軸にすえているものの、9/11、ハリケーン・カトリーナ、イラクでの軍事行動で痛めた米国の「傷」に触れる話でもある。ギヴが試練を乗り越えていくのと同時に、これらで傷ついた人たちを癒やす役割も果たしている。帯にある「犬を愛するすべての人に捧げる」というのは少しずれている気がする。むしろ、犬を愛する人たちの良心に救われるような話のように思える。
キンドルで原本が100円だったので購入したが、このディテールの書き込み具合からすると、英語には相当手こずりそうだ。これは別の楽しみとしてとっておく。次は「音もなく少女は」か。「神は銃弾」はグロそうでちょっとびびっている。