晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「もぎりよ今夜も有難う」

 ほんのワンシーンに登場しても、その印象が頭に焼きつけられる俳優。片桐はいりシネマ・ジャック&ベティに彼女の本が置かれていた(閲覧用?)のを思い出し、検索で文庫化されているのを確認し、値段も手頃なことから購入した。3冊出ていたが、映画好きとしてはこの「もぎりよ今夜も有難う」を選ぶのが筋であろう。

もぎりよ今夜も有難う (幻冬舎文庫)

もぎりよ今夜も有難う (幻冬舎文庫)

 

  「キネマ旬報」に連載されたエッセイをまとめた本だ。筆者が「シネスイッチ銀座」の前身「銀座文化劇場」でもぎりをしてということだ。もしかしたら半券をちぎってもらったかもしれない。「デリカテッセン」はここで観ている記憶があるが、勝手に記憶を本の方にすり寄せているのかも知れない。しかしながら、何度かこの映画館に行ったことは間違いない。ここでバイトしていた時期が明確に記されていないので特定はできないが。

 俳優になっても、まだもぎりを続けていた期間もあったらしい。「自由な女神たち」で松坂慶子の整形前を演じ、その映画がバイト先でかかっていた。映画を観た客が、もぎりをやっている彼女を見て驚くのも無理もないだろう。いまなら一種のプロモーションと思うかも知れないが。この作品を境に俳優業に専念することになったと記している。

 映画誌に連載されていただけあって、書名然り、各項の題も映画のタイトルもじり。「Wの喜劇」「転向生」やら、韓国映画ディープ・ブルー・ナイト」をもじった題など、タイトルが先か書いたものが先なのかはわからないが、映画愛が詰まったエッセイが40編ほど収録されている。

 「わたしのマトカ」「グアテマラの弟」と先にエッセイをだしているだけあってか、文章は達者。はじめて足を踏み入れた場所の情景などの表現は、お見事というほかはない。そもそも才能があるのか、人生経験を積むことによって培ったものなのか。書いたものもしっかりと印象に残った。