晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「遊動亭円木」

 辻原登にハマった時期があった。いまなお気になる存在ではあるのだが、書評や上下巻にわたる文庫本を買って、それこそマイブームとばかりに読んでいた。当時、ぜひ読みたいと思っていたが入手できなかったのが「遊動亭円木」。品切れ状態だったのが、昨年1月に重版されていた。アマゾンでふと目に入り、通常価格で売っていることを確認して取り寄せた。

遊動亭円木 (文春文庫)

遊動亭円木 (文春文庫)

 

  真打ちになる前に視力が落ちて、ほぼ盲(視覚障がい者と書くべきだが、ここは盲じゃないとどうも収まりが悪い)になった噺家の円木とその周辺の人たちにまつわる連作短編となっている。それこそ人情噺あり奇譚ありとそれこそ落語のような話ばかり。十篇中のタイトル作「遊動亭円木」。発表当時は、単発で終わるつもりだったのか、連作含みの洒落だったのかは知る由もないが、最初の回のラストで金魚池にハマって円木が死んでしまう。もちろん、生き返るというか、死に至るほどでもなかったので、次回以降に話が進むわけだが、そこからして妙に落語めいた調子だ。妹夫妻やいわゆる谷町(パトロン)など、さまざまな人が絡んできて、その人間模様も読んでいて引き込まれる。

 長編小説に比べて、ぎゅっとエッセンスが詰まっている。主人公が噺家のせいか、ちょっと無理な設定も不思議と受け入れられる。というよりも、すでに小説の世界に引きずり込まれているのかもしれない。

 こうなってくると「円朝芝居噺 夫婦幽霊」ががぜん気になってきた。こちらも読んでみるべし。