先日、読了した有栖川有栖の本の影響だと思うが、野毛の古書店「苅部書店」で、河出文庫の「鎌倉ミステリー傑作選」を買った。植草甚一の本を買うはずだったのが、短いミステリー物が急に読みたくなり、それなら多少縁のある「鎌倉」がらみの本にしようとレジに運んだ。
この古書店で本を買うのは久しぶり。以前は、ここでみすず書房とか法政大学出版局など、高価な本が安価になるのを狙って購入していた。苅部さんの息子さんだろうか。当たり前だが、少し歳をとっていた。でも、対応が柔らかなくなった印象も。別に以前の態度が悪かったわけではない。
七編が収録。西村京太郎、久能啓二、鷹羽十九哉、石井竜生・井原まなみ、石沢英太郎、笹沢左保、鮎川哲也の短編が載っている。西村京太郎氏の作品はおなじみ十津川警部もの。本を読む少し前に内藤剛志が十津川を演じたテレビドラマに、学生時代に思いを寄せていた女性として、菊池桃子が原口夕子(旧姓池島)が出ていたのだが、ドラマとは状況も内容も違うが、この関係はそのまま。こちらの短編は、江ノ電から犯行現場が見えたものとして、この原口夕子が捕まり、この解決に娘が十津川を頼る。警視庁の十津川が神奈川県警の事件に首を突っ込むわけにはいかないので、休暇を取って対応する(「江ノ電の中の目撃者」)。
久能啓二氏は「死者の旅路」。中世日本美術史の教授が殺されるという話。山前譲氏(解説を書いたりアンソロジーを編む人らしい)によると、鎌倉国宝館に勤務していたそうで鎌倉がらみの推理小説をいくつか残しているとのこと。本名(?)の三山進としても学術系の鎌倉本を書いている。ミステリーはいくつか読んでみたいが、アマゾンで検索するととんでもない値段で売られている。鎌倉の書店や古書店の棚にひっそりとあるのを見つけるほかないか。この「死者の旅路」から小説を書いていないという。
鷹羽十九哉氏は初めて読んだ。収録作「殺るっきゃないわ」は少年探偵団風の男女が出てきて、苦手だなあと思っていたが、読後感は悪くない。「愛人バンク」に登録していた女性がパトロンに殺意を持つという話。
石井竜生・井原まなみの両人は夫婦。舞台が観音崎あたりなので、鎌倉じゃないだろうと思いつつ、全国的に見たら、三浦や湘南も鎌倉周辺と言えなくもないかと無理やり納得。鎌倉に絞ったミステリーを編むのも大変だろうし。これはランニングがらみの作品で、タイムトライアルで二人が賭けをして交互に走り、後に走った方が死体で発見されるという話。4、5分で最初の900メートルを走っているところを見ると、そこそこのランナーと言えそう(「死を賭けて走れ」)。
石沢英太郎氏は「レズビアン殺人行」。今日ではたぶんこんなタイトルにはならないのだろうが、1980年代前半にはOKだったのだろうなと思った。より偏見の強い時代の作品かな。
笹沢左保と鮎川哲也はおなじみだが、どちらかというとテレビドラマで接することが多い。前者は「木枯し紋次郎」「タクシードライバーの推理日誌」、後者は「刑事・鬼貫八郎」。「タクシー」と「鬼貫」はCSで放送しているとついつい見てしまう。収録作はそれぞれ「自殺」「材木座の殺人」。大御所になると、タイトルがバシッと決まる。