晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「韓国 行き過ぎた資本主義」

 この本のテーマとはズレるが、その昔、韓国からの留学生と接して思ったのは、韓国という国はサブカルチャーが育ちづらい土壌だなということだった。みんながみんな、同じゴールを目指して、ひたすら山を登っている印象だ。この金敬哲「韓国 行き過ぎた資本主義」の副題「「無限競争社会」の苦悩」が妙に当てはまる。

韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩 (講談社現代新書)

韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩 (講談社現代新書)

  • 作者:金 敬哲
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/11/13
  • メディア: 新書
 

  出会った留学生たちは東大や一橋大などに籍を置いていて、頭はいいし、礼儀も正しいし、人間としても評価できる。でも、どこか遊び心が足りないというか、幅がないというか、堅苦しい。性格など個人差は当然あるものの、集団として同質な感じがしていた。理論武装した人間と論争しているような窮屈さを感じることがあった。その分、同世代の日本の学生と比べて(徴兵や大学既卒で韓国留学生がやや年上だけど)、しっかりしていると思える部分もあったにはあったが…。

 この本は、子供(受験)、青年(就職)、中年(教育費の負担など)、高齢者(社会保障)の観点から、韓国の問題点をあぶりだす。帯には、「近未来の日本の姿かもしれない」と書いてあるが、同様の問題は生じるだろうけど、社会の体力みたいなものは日本の方が上だと思う(だからと言って、全く安心というわけではない)。感想を先に書いてしまうと、日本人はここまで直線的に〝目的地〟を目指さない。出会った留学生たち(もう働いているだろう。博士課程の連中はまだかも)も、日本だとのんびりできる、落ち着くという印象を持つ人が多かったように思える。

 韓国という国をある程度は知っているつもりでこの本を読んだので、新鮮な驚きはなかったが、数字で示されると国の在り方がヤバいなという気がしてくる。「漢江(ハンガン)の奇跡」と急激な成長を遂げた韓国だが、福祉などは置いてきぼりで成長にはひずみがあった。年金制度が導入されたのも1988年のソウル五輪前後。経済優先はともかく、その前に多少は整備しておくべきことがなされていない。世界最低の出生率と言われている中、高齢者社会に突き進んでいるが、受け皿がまるでできていない。日本も同様と言えるが、深刻度にはかなり差があるように思える。韓国は50過ぎで、会社に居場所がなくなり、退職して自営業に転じる人が多いのだ。ここは最近の動きと絡めるが、文在寅ムン・ジェイン)政権が最低賃金を上げているが、実はこのような政策が、大企業よりも中小の自営業を苦しめることになっている。

 大統領の権限が大きいし、かつ任期は5年1期だし、どうしても振り幅が大きくなる。教育制度も政権次第で大きく変わるし、在任中にもとかく変わる。国として制度を変えるとどうしてもドラスティックになりすぎる。ひずみが大きいだけ、抜け穴も多いみたいで、すぐに制度の不備を突く連中が出てくる。大統領が直接選挙で選ばれるからかもしれないが、どうもすぐに国を動かそうとする向きが強い。その分、政治にも関心が高いのは、見習うべきことだろうが、そうならざるを得ないのだろう。日本なら、制度を変えようとするときには、まずは自治体とか周りから動かそうとするのではないか。どうも、そこらへんを飛ばして、直接国に訴えるのが韓国っぽいのである。

 競争が強すぎて、何かといびつ。教育熱が高いのは否定することではないだろうけど、とにかく極端すぎる。恋愛、結婚、出産を放棄せざるを得ない若い世代を三放世代と呼ぶらしいが、就職、マイホーム、夢など放棄するものが増えていき、五放、七放となった挙句、すべてをあきらめるとして、不定数Nを当てはめた、N放世代になっているなんて、洒落にならない。他山の石としなければ。

 *書影を貼り付けようとしたが、アマゾンからはうまく行かなかった。