門外漢なので、本格的な学術書には向き合えないが、このようなエッセイだったら、なんとかついていける。進化生物学者ってロマンチストだなとつくづく思った。講談社のPR誌「本」の連載をまとめて加筆・修正を加えたもの。筆者の千葉聡氏の専門は進化生物学と生態学だ。「歌うカタツムリ」で毎日文化出版賞を受賞している。
ダーウィンは「種の起源」の初版では、「進化」(evolution)という用語をほぼ使わなかったらしい(本によると、動詞形で一度だけ)。「転成」(transmutation)を使っていたとのこと。当時、「進化」という言葉は、一定の方向性を持って発展していくことを指していて、生物進化のように方向性のないもの(いわゆる「退化」も含め?)も生物学的には「進化」とダーウィンはとらえていた。なるほど。
エンリケ・イグレシアスさんのことにも触れていた。世代的には、お父さんのフリオの時代。ファンというわけではなく「ビギン・ザ・ビギン」とか「黒い瞳のナタリー」とかを同時代に聴いたことがあるだけだ。後者は郷ひろみのカバーでも知られる。正直、息子さんのことはよくわからないが、この人はなんと臓器が普通の人たちとは逆に位置する、内臓逆位なのだそうだ。その昔、手塚治虫「ブラックジャック」で読んだことがあったが、実在する人で内臓逆位の人を知ったのは初めてだ。ウィキペディアをみると、ダイエーの中内功さんもそうだったらしい。このエッセイでは同じく内臓逆位の「北斗の拳」のサウザーに触れながら紹介している。
この本のハイライトは、左巻きのヒメリンゴマイマイ(カタツムリの一種)であるジェレミーのお相手探しだろう。普通は右巻きだが、100万分の1の確率で左巻きが見つかるそうだ。それで、やはり内臓逆位というか、右巻きとは体のつくりが左右逆転しているのだそうだ。となると生殖口が交わらずに、交尾がうまく成立しないらしい。同じ左巻きの相手としてレフティーが発見され、トメウというカタツムリも調理寸前に救われて三角関係。さてさてジェレミーの運命は…。