欧米の英語圏とか、その他はせいぜい韓国くらいの事情しか知らないのだが、日本ほど、真っ当に翻訳者を扱う国はないと思ったりする。日本の小説や北欧のミステリーが英訳されても、英米の本で翻訳者の名前が表紙に載っていることなど、あまり見たことがない(韓国は載っている)。さすがに本のどこかにクレジットはあるものの、完全なる黒子扱いである。
どこかの国の本が日本語に訳された本を見ると、控えめだろうが、ポイント数が小さかろうが、まず翻訳者の名前が表紙にないことはない。あるかもしれないが、自分は見たことがない。
で、柴田元幸さんである。東大名誉教授で、主にアメリカ文学を紹介している。翻訳書と多数というか、やたらと多い。米国の有名な本を翻訳して紹介くれるというよりも、逆に柴田さんの翻訳で米国の作家を知るというか、「彼が訳しているのなら面白いはず」という気持ちで対象の作家を知ることになる。その意味では、村上春樹クラスだし、村上さんも英訳については柴田さんにアドバイスを受けることがあったらしい。今もそうなのかは知らないが。この二人、共著もある。
この本は、その柴田さんのエッセイというか妄想半分の短編というかの文章と、対談や紀行文を集めた本。翻訳者といえどもたくさんいるはずで、このような本をだせるのは一握りだが、それでも日本というは翻訳家のエッセイやら評論やら、時には創作やらがかなり出ている方だと思う。特に柴田さんは、これまたやたらと多い。
出身は、多摩川沿いの六郷沿いだそうだ。降りたことはないが、なんか想像がつく。勝手ながら蒲田により工場(こうば)っぽい雰囲気を足したようなところだろうか。ラーメンとかが旨そうである。ポール・オースターと少年時代を語り合う対談も二人の特徴や生い立ちの違いがクリアに出ていて印象に残る。
柴田さんの肩の力が抜けたような、「狙っていない」文章を読むと、休日だなって気がする。読んで何を思ったとか、これといった感想はないけど、目的地に向かう電車の中でいい景色が見れたような気分である。