晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「豆大福と珈琲」

 お恥ずかしい話ながら、珈琲にまつわるエッセイだと思って購入した。もっと恥ずかしいことに、読み進めてもまだ小説だと気づかなかった。気づいたのは5ページ目あたりである。なんだ小説なのか、と思いつつ、もしかしたら片岡義男さんの小説を読むのは初めて、と気がついた。「スローなブギにしてくれ」とか「メイン・テーマ」あたりが映画化されていた時代は、逆にトレンディ―ものとして読むのを避けていた。イラストレーターのわたせせいぞうとか片岡義男とか、勝手ながら青い空にオープンカーを想像させる人たちは別世界の住民ととらえていた。片岡さんの本を読むようになったのは「日本語の外へ」あたりからか。英語と日本語に関する本はいくつか読んだはずだ。

豆大福と珈琲 (朝日文庫)

豆大福と珈琲 (朝日文庫)

  • 作者:片岡 義男
  • 発売日: 2019/04/05
  • メディア: 文庫
 

  この本には、珈琲にまつわる5つの短編とエッセイが収録されている。すべての作品と言えないが、それとなく通底するのは珈琲の他に、大人の男女、喫茶店、物書き、甘いものといったところか。タイトル作で最初に収録されている「豆大福と珈琲」は、それとなく片岡義男さんの人生とシンクロしている部分があると想像する。

 小説は初めてなので昔の作品のことは知らないが、想像していた通り、ずいぶんと湿気の少ない文章だ。ここらへんはわたせせいぞうさんのイラストのイメージと重なるが、青い空と赤いスポーツカーというよりは、木目基調の室内に太陽光がさしているイメージだ。悪い人は誰もでてこない。登場人物の会話は洒脱というほか、表現のしようがない。大福も鯛焼きも、おしゃれなアイテムと化している。この小説の発表当時、片岡さんは75歳を超えているはずだが、文章にしわが寄っていないというか、張りを感じるのだ。80を超えても、まだ堅実に本を出し続けている。すごいな、この人。

 解説を、これまた最近初めて読んだ柚木麻子さんが書いているのは、やはり「豆大福と珈琲」だからか。彼女も食べ物関連については、かなり魅力的な文章をかける人であることを「BUTTER」で知った。解説によると、片岡さんの作品は近年、身近な住宅地あたりが舞台になることが多いそうである。たしかに、この作品も中央線沿線にある地名がよく出ていた。「精神のあり方次第でどこにでもアクセスできて、生き方はタイミングで変えられるといった身軽さ」(解説より)がより強くなっているそうである。

 片岡さんは「珈琲が呼ぶ」って本も出しているのか。こちらも読んでみたい気がしてきた。とりあえず、珈琲を一杯。こちらはゴールドブレンドをマグカップに入れて、湯を注いだだけのものだけど。

珈琲が呼ぶ

珈琲が呼ぶ