晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「「感染症パニック」を防げ!」

 まず断っておくことがある。この本は2014年に刊行された本なので、直接的に新型コロナウイルスについて述べた本ではない。ただし、副題に「リスク・コミュニケーション入門」とあるとおり、現状にも有効な情報があると思う。購入したのは、それこそ「ダイアモンド・プリンセス」の騒ぎがあったころで、この本の著者であり、船内に入った岩田健太郎さんが「(船内の安全なところと危険なところの)導線がぐちゃぐちゃになっている」と批判していた直後。出版社も目ざとく、この頃に増刷し、「新型コロナウイルスを「正しく恐れる」ために」と謳った帯に付け替えていた。言ってしまえば、それにつられたわけだ。

  リスク・コミュニケーションとは、ざっと書くと、リスク時における、個人や団体や専門機関の情報のやり取り、そして、その相互作用。情報を流す方は、単に情報を正直に流していればそれでいいということではない。嘘は問題外だとしても、情報を整理しながら、受け取る側に刺さるよう、混乱しないように発信しなければならない。その技術が書かれた本だと思った方がいい。

 情報を受け取る側もそれ相応のリテラシーが必要になる。感染症となると、言葉そのままだが「感染する」し、ほぼ目に見えない、集団発生し局地的にも発生し、恐怖感をあおる。こんな時こそ、効果的なリスク・コミュニケーションが重要になってくる。人と人とのコミュニケーションは、常識の延長のような気もするが、常識というのも微妙に変化がある。メディアの情報を鵜呑みにしないためには、メディア側の手法や論理などを知っておくと、なぜそのような情報の発信の仕方をするのかもわかってくる——。なんだ、そういう本かと思って、しばし読むのを中断していた。

 再び手に取ったのは、もちろん、読みかけの本をやっつけるためだ(時間をおいても読了しないと気が済まない性格なのだ)。現在のところ報道も、感染数がどうだ、どこでクラスターが起きた、陽性率がどうだ、年代の広がりはどうだ、経済との兼ね合いはどうだといったところで、出てくる情報も停滞感がある。逆に言えば、こちらに考える時間を与えられた気がして、想定外のことがやたらと起きていた購入時期よりはぐっと面白く読めた。記者会見の仕方、スライドの使い方など、効果的に発信する側の手法も書いてある。どちらかというと広報担当者が読んだ方がいい内容だ。

 個人的に面白かった部分は2点。日本人が「上手に質問できない」という点。「そうかも」と思ってしまった。著者は、日本人がシャイだから質問しないのではなく、質問する訓練を受けていないという。大量に「回答する」こと(受験能力?)に相当な訓練を受けているが、「自分はここがわかっていない」という自覚を掘り起こす能力が欠けているのではと主張する。

 もう一つは、リスク・コミュニケーションとはあまり関係ないと思うが(相手を知るという意味では関係あるかも)、「デマを発信する人は、英語力がとても弱い」ということ。これは思い当たる経験が浮かんできて、読みながらつい首肯してしまった。岩田さんは、デマを発信する人に元論文をちゃんと読むように促すが、読む人は皆無だという。「自分が構築した世界に安住する人」に厳しい言葉を浴びせている。

 口語調なので読みやすいが、その分紙幅を取ってしまったようだ。著者自身がマスコミへの露出があり口調もわかるので、読んでいて話をかけられているような気持ちがした。