晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「はりぼて」

 富山のテレビ局が追った、連鎖的な市議の辞職劇。以前にみた、東海テレビ制作の「さよならテレビ」よりずっと面白かった。いやいや東海テレビの作りに劣るところがあったとは思わない。しかしながら、このドキュメンタリー映画「はりぼて」が取り上げた対象が面白過ぎるのである。素材が面白くて、その差を演出などでは埋めようがない。まさに茶番と言える、この事件についてはまだ記憶がある。富山の知名度をあげるために、議員生命をかけて仕掛けた「街おこし」かと思ったくらいだ。しかし、そこまでありえない話なのかというとそうでもない。ほんの数十年前(十数年?)までは大都市でも起きていただろうし、いまでもどこかしらでありそうな話である。

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ジャック&ベティで鑑賞。9時5分の上映にもかかわらず、まずまずの入り

 舞台の富山は、有権者に占める自民党員の割合が日本一。直接には関係ないだろうが、読売新聞の正力松太郎氏の出身地で、大都市圏外なのに富山を含む北陸支社では読売の夕刊が発行しているそうである。いかにも「保守」が強そうな地盤ではある。

 2016年、自民党会派などの富山市議らは月額報酬を10万円引き上げを議会に要求する。当時の新聞を読むと、市議の成り手不足を指摘して「活動に見合った報酬が必要」と書いてあるし、映画では、「年金が十分ではない」なんて話している部分が描かれている。これが実にスムーズに議会を通るのである。

 地元のテレビ局チューリップテレビが情報公開請求をして政務活動費の不正を暴き出す。領収書などに細工された不正は、万の単位に数字を書き足したり、チラシには政務動を行った日以降の新聞が資料になっていたりと、実に稚拙。支出した政務活動費の数合わせに終始しただけだったのは明白である。ほとんど、「サザエさん」に出てくるカツオの夏休みの宿題のような「やっつけ方」だったと想像する。おそらく長い間、それで通ってきたのだろう。それでいて、不正の理由について「誘われたら断れないタイプなので、酒代に使った」などと言うのである。正直なのかもしれないが、逆に、もうちょっと取り繕ってくれと言いたくなる。背景で流れる音楽でもわかるが、まさしくコメディー。ここまでくると、笑うしかない。

 資料請求がなされたことは、事務方の公務員が忖度して議員たちに知らせていた。これは、近年の政府と官僚の関係と被る。監督として名を連ね、当時「N6」という番組のキャスターだった五百旗頭幸男さんは、タイトルには報じるメディア側もまさに「はりぼて」だと意味合いも、このタイトルに込めたと取材などに語っている。ただ、映画ではそれがあまり見えなかった。もう一人の監督である、砂沢智文さんは上層部の意図で現場から外されたのか。「将来のために仕事の幅を広げた方がいい」などと言われたかもしれないが、圧力なり抵抗なりが見えたら、そこらも感じられたかもしれない。まあ、会社の素材を映画として使わせているのだから、その意味では太っ腹と言えるかも。

 実は見ている間に、監督の五百旗頭さんが、政治学者の眞さんに顔が似ていると思って、そちらの方が気になってしまった。息子さんではないようだが…。