晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「こちらあみ子」

 今村夏子「こちらあみ子」を読んだ。少し前に映画化された「星の子」を読んだ時には、この作家への向き合い方を間違ったまま(正解なんてわからないが)、読んでしまった気がしていたので仕切り直しという気持ちもある。というか、たぶん単純に話を筋を追うと、「そこ?」って気持ちにさせられるのだ。事実、「星の子」はそうだった。村田紗耶香さんのように、その世界に入るのにこちらもそれなりに身構える必要があることも知らされた。ただ、今村さんの場合、それがわかりにくいというか、じわっとくる感覚だ。

こちらあみ子 (ちくま文庫)

こちらあみ子 (ちくま文庫)

 

  セリフややりとりで、人と人との距離の変化が感じ取れるというか、出来事よりも距離感が話を動かしている気がしている。この主人公のあみ子も、オフビートというか、ちょっと変わった子である。そういえば、「星の子」の主人公も普通と言えるかもしれないが、溌剌とは程遠いイメージだし、この「あみ子」に収録された他の2編の主人公もなんか普通の人とはペースが違うような気がしている。もしかしたら、今村さん自身もそんな調子なのかもしれない。

 ウィキペディアによると、この本を出してから、やや休業状態があったらしい。しかし、この本が太宰治賞と三島賞、その後出した本も、いろいろな賞をとったり、候補になったりとヒット率が高い作家だ。「むらさきのスカートの女」では芥川賞を取っている。文庫化が待たれる。

 「こちらあみ子」。内容に触れようとすると、ある程度人物を説明しなければならないし、そのエピソードを並べると中身に触れないといけないしと何か説明が難しいが、周りと馴染まない子の話。「星の子」では筋を追い過ぎて、読み手として自滅した気がしたが、今回はそれなりに受け止めたつもり。

 個人的には、お笑いタレントが投稿に反応して、投稿者にプロポーズするという「ピクニック」も面白かった。登場人物の割り振りが妙味を出している。これは「あひる」も読む羽目になりそうだ。