晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「白い病」

 新型コロナウイルスの影響で、カミュ「ペスト」がまた注目され、デフォーの「ペスト」も店頭に並び始めた。サラマーゴ「白い闇」なんてのも出ている。ついつい買ってしまったが、川端裕人「エピデミック」も重版されていた。その他小説以外にも、感染やウイルス、免疫など、様々な関連本が店頭に並んでいる。その中で分量的に一番とっつきやすいのは、このカレル・チャペック「白い病」ではないか。

白い病 (岩波文庫)

白い病 (岩波文庫)

 

  そもそもは阿部賢一さんが東京で緊急事態宣言発令された日(4月7日)から、この戯曲の翻訳を始めて、週末ごとに公開していた。翻訳を追えたのは5月中旬。その後、7月には岩波文庫になっているだから、速いペースで作られた本だ。過去にも翻訳はされている。

 コロナ禍が生んだ本とも言えるが、内容そのものはどちらかというと、戦争反対、恒久平和の方に重きが置かれているように思える。比較的短い戯曲なので、詳細は省くが、侵略戦争が迫る中、ある病が流行する。薬を発見したのはなんと開業医。政府は薬の提供を要求してきた。彼を提供・治療するにあたって開業医が出した条件とは——。治療対象を年齢で線引きするなど、考えさせられる部分も多い。

 チャペックは割と身近な存在だと思っている。「園芸家12カ月」は過去に人に薦めたことがあるし、長編の「山椒魚戦争」はまだ手付かずだが、「ダーシェンカ」は対して犬嫌い(自分は飼わないというだけ)の自分でもついつい読まされてしまった。その他、紀行文も読んでいて楽しい。

 チャペックは医者の家庭に生まれていたのか。スーザン・ソンタグ「隠喩としての病い」にも引用されているとは知らなかった。読んでいるはずなんだけどなあ。数十年前だけど。

 新聞記者でもあったというチャペックの一面ものぞける一冊。思い出したのは、金沢駅の近くにあった珈琲店「チャペック」。上野からまだ寝台車が走っていた時代に行って、朝早く着いてしまったので、開いているところに駆け込むように入ってしまった場所。ネットで調べてみるとまだ残っているようなので、次回金沢に行ったときはぜひ立ち寄ってみたい。