晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「歌集 滑走路」

 映画「滑走路」の予告編を見て、読んでみようかと思った。

 朝日新聞の読者だし、短歌は詠まないものの「朝日歌壇」はよく目を通しているはずだ。しかし彼の存在には気づかなかった。萩原慎一郎さんの初めて歌集で、かつ遺作となった「歌集 滑走路」。一読しただけだが、やさしい歌が多いと思った。人を責めるような、社会に強く物申すような歌はない。自分という存在を確かめているような、仲間の背中を押してあげるような、そんな歌が多いと感じた。

歌集 滑走路 (角川文庫)

歌集 滑走路 (角川文庫)

 

  若いころからの歌が順に掲載されていると思う。最初の方は、これなら自分も作れるぞと思わせる歌が多い(実際は、決してそんなことはない)。テーマが身近で、口語が多いからだろうか。たぶん目線がほぼ同じで、ストレートな歌が多いから、そんな勘違いをさせるのだと思う。荻原さんが好きだった野球に例えると、打ち頃の速さだけど、実は回転数が多い直球という感じだろうか。その素直さが強みという気がする。

 萩原さんは、中高一貫校に入学したがいじめにあう。有名な進学校だし、頭のいい連中のいじめというのは狡猾だったのかもしれない。そんな中で短歌に出会う。俵万智さんの歌に「自分も作れると思った」という。俵さんの歌も萩原さんの歌も、こんな歌は作れないと突き放すような「名作」じみた歌ではない。むしろ親近感を持たせて、抱え込むような歌なのだ。

プラトンは偉大で ぼくは平凡だ プラトンの書を読みつつ思う

 自分もプラトンを読んでそう感じた。今もそう感じる。哲学に興味はあるのだが、スタートとしてプラトンを読み始めて、それ以降に進まないのだ。

きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい

 これが題となった歌だろう。翼を手にするのは、自分じゃなくて「きみ」なの?と思ってしまう。歌の解釈なんてできない人間だが、自分も困難な立場にいながら、他人にエールを送れる人間だったのかなと思った(恋の歌かもしれないが)。

 この歌集でいろいろ考えさせられてイメージが出来てしまったので、逆に映画を見て、壊されるのが怖くなった。でも、たぶん見ることになるのだろう。やはり気になっている。