晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「あひる」

 今村夏子「あひる」を読んだ。彼女の場合、話の筋の書いたって作品の紹介にはならない気がしている。どうしたものか。なんか「ズレ」があるようなのだが、それをうまく伝えることができない。「ズレ」という言葉が正しいかどうかもわからない。「ツボの違い」というべきか。書いてる本人はまるで意図していないのかもしれない。どんな「ズレ」なのか気になる人は、とにかく一度読んでみてくれとしかいいようがない。となると、この一番薄い「あひる」が手ごろなのかもしれない。

あひる (角川文庫)

あひる (角川文庫)

 

  とはいえ、大筋は書いてみる。表題作を含めて3編を収録。「あひる」は、あひるを飼う「わたし」の家の話だ。あひるの名は「のりたま」。なんか意味があるとおもいきや、そうでもなさそう。前に飼っていた人が付けたのを受け継いだだけだという。わたしは医療系の資格を取るために勉強中で、結婚した弟が家を出ているので、家は父と母との三人暮らしである。

 ネタバレが入るが、あひるを飼っているとなると、子どもが遊びに来るようになる。ある日、のりたまが死んでいなくなると子どもがこなくなり、また代わりが来ると、子どもが「のりたま」と言いながら遊びに来る。そして、これが繰り返される。なんか何事も起きていないようにこれが続くのだ。あひるを可愛がっていながら、弟夫婦に子どもができると、これまた何事もなかったように、あひるの小屋をなくして、子どものためのブランコを庭につくる。

 なんかミニマル・ミュージックのようで、交響曲のようにここから盛り上がるといった旋律の流れみたいなものがあまり見えてこない。素人考えながら、なんか読者が感づくような「仕掛け」が必要なんじゃないのと思ったりもするのだが、そこは淡々としているようなのだ(あるのにキャッチできていないのかもしれないが)。

 といつつ、そんな作風にはまっている自分がいる。はまっているとは認めたくないが、文庫本はすべて読んでしまった。単行本には手が伸びないが、文庫本は確実に読んでしまいそうな作家なのだ。他に「おばあちゃんの家」「森の兄妹」を収録。