講談社文芸文庫が2000年ころに出した、短篇集のアンソロジー。「表現の冒険」は一風変わった小説で編まれている。この10番目の本で完結だったはずだが、好評だったせいか、その後も続いた。中古本を売る時に見つけて、面白そうだから読んでみた。
度合いに違いはあるが、いわゆるカフカっぽい作品が多いだろうか。収録作は、内田百閒「ゆうべの雲」、石川淳「アルプスの少女」、稲垣足穂「澄江堂河童談義」、小島信夫「馬」、安部公房「棒」、藤枝静男「一家団欒」、半村良「箪笥」、筒井康隆「遠い座敷」、澁澤龍彦「ダイダロス」、高橋源一郎「連続テレビ小説ドラえもん」、笙野頼子「虚空人魚」、吉田知子「お供え」。
奇譚めいたものは嫌いじゃないが、グロいのはちょっと苦手。読んだことがある作品は、石川淳、小島信夫、安部公房、高橋源一郎あたり(面倒なので敬称略)。でも、中身なんてほぼ忘れているので、新鮮な気持ちで読めた。小島信夫「馬」は途中で内容を思い出したが、世帯主の男性が、その座を馬に奪われていくような話。石川淳「アルプスの少女」は「おとしばなし集」で読んだ記憶があるが、ハイジとクララの話をもじったもの。高橋源一郎の収録作は、書けなくなったころの作品ではなかったか。ここらへんから彼の作品を読まなくなった。
稲垣足穂と澁澤龍彦はけっこう読んでいるつもりだったが、未読のもの。稲垣足穂は「A感覚とV感覚」からの一篇。パンツに隠れる部分の話なのに、彼が書いたものはカラッとしていて、全然いやらしくない。澁澤の「ダイダロス」は実朝もの。彼が眠っているのは浄智寺。久しぶりに鎌倉の寺社巡りがしたくなってきた。
アンソロジーというのは、未知の作家に出会う場でもある。藤枝静男作品には初めて接した。死んだ男が家族が眠る墓に帰る「一家団欒」。半村良は人気作家だったと思うがこれまで縁がなく初めて読んだ。吉田知子も初めて知った作家。どんな作家なのか、知ってみたいと思った。ご存命だが、ここ何年も書いてらっしゃらないようだ。ちょっと気にしてみよう。