晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「ぼくの鎌倉散歩」

 好きな詩人と言われて、頭に浮かぶのは田村隆一さんである。鎌倉には1970年から1998年に亡くなるまで住んでいた。自分が日雇いのバイトで得た金を握りしめて、鎌倉に行き始めたのは1980年代の半ば。残念ながら本人に会ったことはないが、気張ることのない生き方と、酒との付き合い方に魅せられた一人である。その昔、角川春樹事務所から出た「スコッチと銭湯」は、この組み合わせがミスマッチだと思いつつ、田村さんの人生を言い表したようなタイトルなので、ついつい読み返してしまう。

ぼくの鎌倉散歩

ぼくの鎌倉散歩

  • 作者:田村 隆一
  • 発売日: 2020/11/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  会社近くの書店に、この本が売っていた。「ぼくの鎌倉散歩」。この詩人に関しては全集も全詩集も持っているので、買う必要はないとも思ったが、コロナ禍でずいぶん鎌倉には行けていない。大船(鎌倉市である)までは足を運ぶのだが、その先にはご無沙汰だ。田村さんに鎌倉を案内してもらうのもいいだろうと思い、購入した。出版社は「港の人」。やはり地元の出版社らしい。

 当然、鎌倉にちなんだエッセイや詩が収録されている。詩人が巡るのは、材木座鎌倉宮、星の井などなど。それぞれ年に一度二度は訪れていたところである。

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清水湯のオープンを待つ人たち。地元の人も多いが、ランナーもいる

 材木座について書かれたところでは、本文では触れていないが、清水湯を思い出した。天井が10メートルほどもある、湯船が真ん中にある銭湯である。週に半分ほどしか開かないらしいが、自分が行った時には、大学生が留学生に銭湯体験させたいと日程を調整していた。

 たらば書房にも行っていない。あそこで本を買って「たらば通信」をいただくのが、鎌倉に行った証明だったのに。寺社巡りもしたいし、食べたいものもある。鎌倉への思いがつのる一冊だった。コロナ禍での振る舞い方も多少はわかってきた。どうせ一人で行くのである。変わっていないのを確認するのが鎌倉散策だと思ったりする。贅沢な時間なのかもしれない。

 最後に、田村さんらしい詩を引用したい。

どうして枯葉には

いろいろな色がついているのだろう

葡萄酒の色 琥珀の色 モルト

ゴールデン・メロンの色

きっと風によっては飲む酒がちがうのかもしれない

(「秋の黄金分割」『ぼくの鎌倉散歩』p. 110-111)