晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「まっぷたつの子爵」

 大好きなイタロ・カルヴィーノ「まっぷたつの子爵」が新訳で登場したので、読んでみた。カルヴィーノはイタリアの作家で、「我々の祖先」3部作の1作目。オリジナルは1冊にまとまっているという。ちなみに他の2作は「木のぼり男爵」「不在の騎士」で、「まっぷたつの子爵」と同様に、白水社白水Uブックスとして刊行されている。

まっぷたつの子爵[新訳] (白水Uブックス)
 

  これまでは、河島英昭訳で晶文社刊の単行本、岩波文庫で読んできた。しっかり内容も把握しているので新訳を楽しむような気持ちで購入して読み始めたのだが、筋を結構忘れていて、我ながら驚いた。

 戦争で体がまっぷたつとなったメダルド子爵。奇跡的に生きて領地に戻ってきて、その半分の姿と一変した性格に領民はとまどうという部分はしっかり覚えているのだが、あまりに単純化してしまったために細部を忘れてしまっていたようだ。特にこの作品は、「本は読みたいけど、何を読んだらいい」と聞かれた場合に薦める本の一つで、繰り返し話すうちに簡略版が頭の中を占めてしまったらしい。その意味では、新鮮な気持ちで読めたので、忘却というのもまんざらでもない。

 まっぷたつになった子爵は、それぞれ右半分、左半分で「悪い」「良い」に分かれていた。領民たちは「二人」を混同していたのだが、だんだんと分かってくる。「悪い」半分はもちろん問題があるのだが、「良い」半分も、らい病者たちの体だけじゃなく、精神もよくしようと説教して煙たがられる。どちらにせよ、極端は受け入れられない。

 「良いメダルド」がこんなことを言う。

 「……それがまっぷたつに引き裂かれている存在の良い部分なのだ。世にあるすべてのひと、すべての物のそれぞれが、それぞれの不完全さゆえに、どんな苦労を背負っているかを理解できるから。(中略)今私は、以前、完全だったときには知るよしもなかった友愛の心を持っている」

 「良い」「悪い」の半身同士は、ある女性(パメーラ)をめぐって戦うことになる。果たして結果は……。安価な文庫でいいから、読んでほしいおススメの一冊。

まっぷたつの子爵 (岩波文庫)

まっぷたつの子爵 (岩波文庫)