晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト」

 鎌倉・浄智寺は源氏山ハイキングコースの入り口にあるせいか、ついつい寄ってしまうことが多い。俗的な理由でも申し訳ないのだが、拝観料が大人200円で手ごろだというのもいい。そして、その割に見どころが多い。布袋尊に行っておなかを撫でて、ご利益を願うとともに自らの腹をいましめる。とはいえ、コロナでずいぶんご無沙汰していたのだが。小津安二郎小倉遊亀が暮らしていたのが有名だが、澁澤龍彦が眠っているのでも知られる。

  で、浄智寺に行ったら急に澁澤龍彦が読みたくなった。最後のエッセイ集「都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト」(学研M文庫)を選んだ。澁澤さんといえば、エロスだったりサドだったりと、なんとなく後ろめたいモノを書いているようにも思えるが、不思議と文章は端正というか、湿度が少なくて、さっぱりしたものが多い。率直な人なのではと勝手に想像している。エッセイ集なので、書評あり、身辺雑記あり、推薦文ありと、印象をまとめるのは難しい。洋菓子の盛り合わせをいただいている気分である。

 とはいえ、タイトルから想像できる通りで、表題のエッセイは亡くなった年のもので、入院した前年に起きたことを書いている。手術の後に幻覚を見たという話なのだが、澁澤さんが書くと、妙に奇譚調になるから不思議である。

 「ホモセクシュアルについて」という同性愛者に芸術家が多いという論考も興味深い。澁澤さんは、難しい問題だが、同性愛者の中では子どもが生まれないので、精神的文化的領域の仕事で補償しようと欲求が無意識のうちに動かしているではないかと指摘。この項は左利きにも及び、不便さの補償が芸術やスポーツの世界を花開いているのではと書いている。

 澁澤さんは「龍」が大好き(竜はダメ)。「ドラコニア綺譚集」って本を出しているし、妻も龍子さん。さすがに名前で選んだわけではないと思うが。若い時に、澁澤さんくらいに国内外の小説や絵画に通じていたら格好いいなとあこがれていたこともあったが、それも叶わないまま終わりそう。