晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「編集長の条件 醍醐真司の博覧推理ファイル」

 文庫化されたので、即買いして即読み。こういう形でざっと読めると、自分にもまだそれなりの集中力と体力が残っていることにホッとする。本がそれ相応に面白いということなのだが。

 浦沢直樹MASTERキートン」などで原作を担当した、長崎尚志さんの「醍醐真司の博覧推理ファイル」シリーズの第3弾「編集長の条件」。主人公は野毛あたりに住んでいる、フリーの編集者・醍醐真司(今回は桜木町としか書いていない)。今回は、編集長として大人向けマンガ雑誌の建て直しを依頼される。依頼するのは中堅どころの出版社。当初は断るつもりだった醍醐だが、前任者が転落死した南部正春だったことを知り、期間を決めて受けることにする。南部は飲んでは相手を罵倒する悪名高きマンガ雑誌編集長だが、マンガへの愛は深かった。醍醐は南部の事故死か自殺という見立てにも疑問を感じている。

  一方、元警察官で調査員を務める水野優希が、別件で南部の調査を依頼される。シリーズ2弾目の「邪馬台国と黄泉の森」で出番のなかった水野が再登場。醍醐と再会し、南部の調査に合流する。話は、戦争直後の紙芝居時代に進み、なんと昭和史の謎とされる「下山事件」にまで及ぶ。説明不要だと思うが、「下山事件」とは、占領下の国鉄の総裁だった下山定則氏が通勤途中に失踪し、翌日に轢死体で発見された事件で、自殺説・他殺説(謀殺説)のどちらからも疑われ、真相が明らかにならないまま時効を迎えた事件だ。

 ぐいぐいというよりは、くいくいと読ませる感じか(酒を飲む人じゃないとわからないかもしれないが)。マンガ編集者や原作者として、このような文章をマンガの描き手に書いたり、提示していたのだろうか。難しい(文学的な)言葉をまるで使わずに登場人物のキャラやしぐさが想像できるように書いている。そこに、マンガのあり方やトリビアが散りばめてあって、読み手の興味が尽きないように仕組まれている。終盤、これで片が付いたと思ったところで、また話を転がしてくる。つくづく、サービス精神の旺盛な人だと思った。マンガの編集者というのは、たぶん文芸の編集者に比べると描き手と同伴する時間が長く、一般に「共作」している意識が強いのだろう。雑誌社に多い雇用形態の正社員と契約社員の問題にも触れている。

 思わず口元が緩んだのは、醍醐が食べていたお菓子の「ポップル」。マカロニを揚げたスナックで、特別美味いと思わないのだが、食べ始めるとついつい口に運んでしまう不思議なスナックだ。個人的にはトマト味が好きである。