晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「アイデンティティが人を殺す」

 刺激的なタイトルだ。やや乱暴なまとめ方をするなら、あまりアイデンティティに拘泥すると(特に、国家や宗教)、紛争につながりかねないという意味か。

 もしくは、アイデンティティをコミュニティーや、誰それとの血縁関係レベルまで突き詰めていくと結局はそれぞれがユニークな存在ということになる。中途半端に国籍や言語グループ、宗教などの大まかなアイデンティティにこだわると、個人として死を招くという意味だろうか。出自が一緒でも環境によって「オリジナリティー」のようなものが生じてもくるだろう。多様性を大事にしようということだけは間違いない。

 筆者のアミン・マアルーフさんはレバノン出身のパリ在住の作家。イエズス会系の学校を出ていて、カトリック信者。親のルーツまでたどると、多くの帰属先を持つ人である。キリスト教だって、カトリックプロテスタントと単純に分ければいいわけじゃない。宗派によっていろいろあるはずである。

  たぶん、ヨーロッパをベースにしているのが理由だと思うのだが、自分の言語と英語のほかに、第3の言語を習得することが大事だと説く。そうすることによって、その言語の国への文化に関心を持ち、程度はともかくコミットする意識が育つという事だろう。ヨーロッパ的だなと思いつつ、いまではアジア圏にも当てはまりつつあるのかもしれない。個人的には、中国語、ベトナム語などに興味があるところである。

 筆者は以下のようにまとめる。ほんのわずかであっても、自分が住む国で一体感を感じられるようになるべきだと。そして、自分のアイデンティティはひとつだとは思わず、自分の多様性を受け入れ、アイデンティティは自分の様々な多様性の総和になるようにすべきだと。もちろん、社会もそうあるべきだと。もう20年も前に出版された本で、国で黒人の大統領が生まれるようなこともあるだろうと予言めいた(可能性を書いただけだろうが)ことも書いてあるが、確かに今は、ジェンダーとかを考えると多様性を認めざるを得ない時代に入っている。古い人間のせいか、至らないところもあるが、少なくとも目配せくらいはできるようにしておきたい。