晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「ルポ川崎」

 中1男子生徒殺害、通り魔の児童殺傷事件など、川崎というと物騒なイメージがある。自分が横浜に出てきた頃にも、浪人生が金属バットで両親を殺害する事件があった。公害問題のイメージもある。一方で、人権啓発などで他をリードしている自治体というイメージもある。音楽ライターの磯部涼さんが書いた、この本を読んで、この両面は背中合わせかもしれないとの気持ちになった。

 気になっていた本だが、タイトルが漠然としすぎて手がでなかった。目当ての本を買って、もう1冊追加しようと思った時に再び視界に。有隣堂本店の文庫コーナーの出入り口に積んであったのだ。川崎の「負」の部分に焦点を当てた本だろうとは想像がついたが、読んでみると希望らしきものも見える本だった。

  著者は音楽専門だけあって、川崎のヒップホップシーンというアングルから、川崎を描いている。有名アーティストを少しばかり知っている程度の自分には、登場してくる川崎のラッパーたちの存在のすごさがいまひとつわからないのだが、闇社会から音楽を通じて表に出てくるというのは、ニューヨークのハーレムからスターになった黒人アーティストの話を読んでいるみたいな気持ちにさせてくれる。しかしながら、単純なサクセスストーリーを紹介しているわけでもない。

 川崎市の海側、特に川崎区の工業地帯に住む人間の話が多い。内陸に向かって長細い市だが、海側の方にいわゆる道を外した連中が多いようだ。なんか、イタリアの南の問題と似通っている気がしている。イタリアも南の方にマフィアやカモッラたちが多い。そうした背景は貧困問題と無関係ではない。

 そもそも工業地帯に多くの労働者が集まり、やくざものが闊歩するような地帯だった。このように危うい場所というのは、外国人にとって生活の拠点を構えるために入り込みやすいところでもある。在日朝鮮・韓国人をはじめ、ブラジル、ペルー、フィリピンと多くの人が定住の地として選び始める。

 貧困や地元を歌ったラップやスケートボードで成功した者たちが、若者たちの目標となる。犯罪などに手を染めていた人間も徐々に「卒業」していく。「卒業」できない人間だって多くいるだろうが。筆者は、週に何度も川崎を訪ね、若者を中心に話を聞き、物語を紡いでいく。

 アンチとしてヘイトデモに立ち向かう彼らたち。たぶん人権とか差別反対とかのお題目よりも、川崎に向かって来た人間たちにシンプルに対抗しただけなのでは。そんなことを思った。そんな姿勢が基本大事なのかも。登場人物の川崎愛に感服。