晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「志ん生の食卓」

 正直、古今亭志ん生の高座は見たことない。1973年に亡くなっているので、見たとしてもテレビだろう。当時は、落語という芸すら認識していなかったと思う。息子の志ん朝はなんとか生で見ている。江戸を体現した華のある落語家だった。父親の方はもっぱらCDで聞くか、著書の「なめくじ艦隊」「びんぼう自慢」を読んだ程度。借金の取り立てから逃れるために改名を繰り返したといわれるくらい、貧乏の代名詞的な存在でもある。志ん生の娘である美濃部美津子さんが、食事にまつわる父親の思い出をまとめた。

 貧乏、江戸っ子がイメージの志ん生。食卓と言っても横文字の料理が並ぶわけがない。フォアグラ、トリュフなんて、読む方が願い下げである。値が張る食べ物は、せいぜい中トロ、うなぎくらいか。食生活でも、しっかり貧乏、江戸っ子だ。

 最初は納豆、次は豆腐(湯豆腐、冷奴)とほぼ予想通りのラインナップ。日本酒は菊正宗が好みだったそうだ。この本が出た当時は、美津子さんも相当のお歳だったように思える。書くというよりも聞き書きの形のようだ。美津子さんの口調が、亡父を遣うようで非常にやさしい。

 写真やイラストを使った薄い本。会社の帰りに買って、電車内と家に着いてハイボール2杯飲んでいる間で読了できた。すこし物足りなかったが、平野恵理子さんのイラストが見事にカバーしている。親子丼や、志ん生特製ちらし寿司(中トロと穴子の二色丼)の絵が華美過ぎず、本の内容とマッチしている。

 こんな本を読むと、こちらも冷奴と冷酒で一杯という気持ちになるが、少なくとも二週間は我慢しないと。