この著者の存在は知らなかった。実は、ニューヨーク・タイムズで坂口恭平さんの記事を読んで知ったのだった。海外メディアが取り上げるほどの日本人なら、ほぼ知っているはず、とその程度のアンテナを立てているつもりだったが、この人は引っ掛かってなかった。ちょうど書店に用事があったので、文庫本でも買ってみるかと手にした。著者紹介を見ると、著作の題には記憶がある。
この人は、建築家、作家、絵描き、歌い手、で、ときどき新政府内閣総理大臣だそうである。うーん、何なんだ、この人。記事は、アーティスト面の彼から話に入っている。本で言えば、河出文庫の「TOKYO0円ハウス0円生活」が記者の目に留まって、取材されたのかな、と思った。
読んでいていると、彼の身の上話を聞かされているようなのだが、普遍的な部分もあるような気がしてくる。そもそも啓蒙書を毛嫌いするタイプなのだが、この本は結構読めた。タイトルの通り、「現実から逃げて、自由になる」方法を紹介している本である。
とはいえ、現実から逃げても、そこもまた現実なのではないかと自分は思ってしまう。現実というのも人によって違うのかもしれない。坂口さんが、「こうしたら現実から逃げられる」と示しているようにも思えない。身の回りの話をしているだけのようにもとれる。
ただ、生きるヒントのようなものはもらっているようなつもりになる。これまた、ズバリという感じではないのだが、なんか外堀も徐々に埋められているような感じで、読んでいるとやっぱりそんな本なのかなあ、と思えてきた。
なんかゼリーみたいな本だった。腹にたまらないけど、食感だけ覚えていて、暑いときとか、口寂しいときとかに、また食べてみようかという気持ちにさせられた。不思議な読書体験だった。また何か読んでみようかな。