晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「科学者は戦争で何をしたか」

 2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さんが81歳で亡くなった。歯に衣着せぬというか、思ったことを率直に口に出す気持ちのいいおじいちゃんという印象を持っていた。戦争はダメとしっかりと主張してくれる戦争体験者が一人、また一人と去っていくのは寂しい。それだけ平和が長く続いているとも言えなくはないが。

  ノーベル賞受賞式の際に戦争体験に触れたことでも知られる。受賞に対して「大して嬉しくない」と語ったことも有名。この本によると、財団側の上から目線の「やる」という態度が気に入らなかったと書いてある。普通は、「授けたいが受けてくれますか」という態度のはずだと。知らせが発表の1時間ほど前で、判断する間を与えなかったことも癇に障ったらしい。

 名古屋市出身の益川さんは5歳の時に爆弾が自宅の前に落ちてきたという体験をしている。焼夷弾で幸い不発だったので助かった。当時は怖さがわからなかったが、のちに事情を知ってくると恐怖が沸き起こってきたという。益川さんと一緒に化学賞を受賞した下村脩さんも原爆体験を講演で話しているそうだ。そのような体験を語り継ぐことを責務と感じているはず。

 益川さんは、恩師である坂田昌一さんの「科学者は科学者として学問を愛するより以前に、まず人間として人類を愛さなければならない」との言葉を受け継ぎ、生活者としての目線は失うまいと心がけてきたという。そのような姿勢で、特定秘密保護法や、政治家の靖国神社参拝、最近では日本学術会議の人事にも反対していた。共産党チックという人もいるだろうが、毅然とした態度を取れるのは立派なものだと思う。

 自然科学の分野で、近年引用数が多い(影響力が多い)論文数の日本の順位が10位で過去最低となったそうだ。数日前のニュースで報じていた。公的研究費助成の「選択と集中」が響いたかどうかはまだ不明だが、益川さんの本によると、どうも短期に結果が出るようなものに「選択と集中」がなされていて、中長期の研究にはなかなかお金が回らないそうだ。もちろん税金である以上、見極めて使ってほしいし、出すにあたってもそれなりの基準を示す必要もあるだろう。ここらへんは将来への投資だということも考えて多少は緩めにしてはどうかとも考える。助成金を出す方も頭が痛いとは思うが、日本の強みだと思っていた分野が出遅れてくると、さすがに寂しい。とはいえ、防衛費は増える一方だが。