勝手に柳美里という作家を誤解していたようで、この本を読んで、これまた勝手に見直すことになった。彼女の本は、戯曲「魚の祭」をはじめとして小説も4、5冊は読んでいるはずだが、それでも偏狭な読書体験しかもたない作家だと思い込んでいたのだ。自分の体験を軸に物語をつむぐタイプの作家であることは間違いないと思うのだが、それだけに外部の情報を閉ざして、自分の内面世界を「昇華」させて書くタイプだと思っていた。太宰治が好きなことくらいは知っていたが、こんなに多様な本や作家を読んでいるとは……。
25年前に出た、本や作家についてのエッセイを再構成したもの。この本の親本が出た当時は、柳さん本人だって書店主になっているとは思わなかったはず(と、あとがきに書いてある)。東日本大震災後に福島県の南相馬軍に移住し、作品名でもある「フルハウス」という書店を開いている(カフェも併設)。書店は一般的に、本が焼けるのを嫌がるので窓はない(高い棚も必要だし)という意味で、逆手をとったなかなかいいタイトルである。「フルハウス」も、サイトを見る限りでは、カフェ部分かもしれないが日差しがよく入るような造りになっている。コロナで休業中だそうだが、一度行ってみたいと思っている。もう少し状況が良くならないと帰省自体できないのだが。3年前に田舎に帰った時に、のぞいてくればよかった(日程的に厳しかった)。
まえがきに「私に一番欠けているのは論理性である」と書いてある。で、書評や小説論は苦手だと。このへんはイメージ通りなのだが、大上段に構えて作家や作品を論じるようなこともなく、この作家のフィルターを通して様々な作品と作家に接することができる。その塩梅がいいと思った。
鎌倉や横浜など土地勘がある場所が出てくるのが個人的に馴染みやすいのもあるのだろうが、なんかすいすい読めてしまった。なんかドメスティックな感じがする人だと思っていたが、結構外国の作家も読んでいるのね、この人。