晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「猫は知っていた 仁木兄妹の事件簿」

 書店の棚に目に留まったのが、この本。仁木悦子さんの江戸川乱歩賞受賞作だ。たぶん、子どもの頃に一度読んだと思うが、忘却力に磨きがかかっているので新作のように読めた。1957年発表の本なので、言葉遣いが懐かしい。「上手」よりも「達者」、「レンタカー」が「貸自動車屋」など、読んでいると周りの風景も昭和になったような。こんな読書はいいな。

 ベストセラーになった有名な推理小説なので、あまり内容に触れてもしょうがないかもしれない。作家の仁木悦子さんが実名で登場するシリーズだ。ピアノの家庭教師を依頼された音大生の妹・悦子が、兄・雄太郎とともに、依頼主である医者の病院の一室を借りて、住むことになる。入院患者や看護婦(当時なので)や、当然、医者の家族と同居のような形になる。そこで起きる連続殺人事件。殺人トリックの一つに猫が使われたので知られる(これは、タイトルから推測できる)。

 作風が明るいのであまり悲壮感がない、ヤングアダルト向けの作品となっている。人が死んでいる話なのになぜか安心して読める。動機としては、恨みつらみもあるのに不思議である。文体もそうだろうが、この兄妹のやり取りがコミカルな部分があるからだと思う。悦子さんが児童文学を書いていたことも関係していると思われる。

 作家の仁木悦子さんは、「日本のクリスティー」とも呼ばれた。子どもの時に胸椎カリエスを発症して歩けなくなった。数回の手術の結果、30歳あたりで車いすを使えるようになったらしいが、それまでは寝たきりだった。障がいがあるからと作風まで暗くなる必要はないだろうけど、非常に明るい作風なので気持ちの強い人かなと勝手に想像している。

 ウィキペディアに書いていることだが、このシリーズの登場人物の仁木悦子は結婚して、後期の短篇は主婦探偵として活躍するそうだ。これまた読んでみたい。