晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「英語と日本軍」

 英語学者である江利川春雄さんが、日本軍による英語もしくは外国語教育の実態をまとめた本。カリキュラムや配分などは変化はあるが、陸軍はロシア語やドイツ語などを重視する一方、海軍は英語重視だったとのこと。当時の軍人への外国語教育に、現在の日本の英語教育も透けて見えるような気もしてきた。

 米国は、日露戦争の時から日本を仮想敵国とみなして、将校を日本に派遣していたという。とはいえ、高い日本語能力を持つ者は少数だった。1941年11月には海軍日本語学校の授業が開始し、1250人の語学将校を養成。日系2世6千人と非日系数百人にも日本語教育を実施していた。海軍日本語学校にはドナルド・キーンさんや源氏物語の翻訳で知られるエドワード・サイデンステッカーさんもいた。海軍日本語学校は授業こそ毎日4時間だったが、予習には8時間を要したという。

 太平洋戦争前から、外務省の暗号を解読していたという。日本軍の文書を翻訳する者は約千人。「米国人」として認められようという日系人たちの貢献も大きかった。面白いのは、米国の兵士は「タスケテ」などと助けを乞う言葉を習っていたという。ここらは死んでも捕虜にならないという日本の姿勢とは大きく違う。

 一方の日本の陸軍は、太平洋戦争が始まる直前に、予科士官学校などの入試から英語を撤廃した。入校後の英語教育の時間も減らしていた。終戦間際に力を入れ始めたが、結局それが生かされたのは戦後の英語教育になってしまった。

 現在、日本では経済界の要請で、4技能など英語教育に力を入れてきている。しかし、江利川さんに言わせれば、経済界が必要ならば経済界でやるべきだという。英語力を高めようと学校レベルで一斉に「話す・聞く」といったエリートまがいの教育を施しても、うまく行くことはないという。そもそも学生全員が、将来英語の道に進むわけではない。それでいて、スピーキング力やリスニング力の取得は時間がかかる。それらの能力を共通のテストで問うのは、どうも解せないのである。